書評books 躍動感ある聖書世界が浮かび上がる歴史解説書!

東京基督教大学神学部教授 須藤英幸

 


『地図で学ぶ聖書の歴史』
ポール・ローレンス 著
300×232ミリ 上製・190頁
定価3,960円(税込)
いのちのことば社

 

A4版を少しだけ広げた紙幅の中に、ふんだんに地図と写真が掲載される本書は、聖書の歴史の最新情報を味わいながら読み進めることができる歴史解説の入門書です。
聖書の歴史を学ぶ点で大切なことは、別々にアプローチされがちの旧約と新約を一つの歴史として、神と神の民とが織りなす聖書全体を貫くストーリーとして包括的に理解することです。本書は、聖書全体を通して描写される歴史の流れを滞りなく把握するのにとても適した良書です。
著者は、旧約と新約にカテゴリーを分けるという従来の類似本に見受けられた分類法を取りません。その代わり、本書の主要部分は「聖書とは何か」で始まり「キリスト教の広がり」で終わる八十二項目の選び抜かれたトピックで構成されます。トピックの内容は旧約関連が五十三項目、中間時代が九項目、新約関連が二十項目となります。その中に、補足的なトピックが含まれます。各トピックは幾つかのサブトピックに分かれており、例えば、「ペリシテ人の脅威」では「ペリシテ人とは何者か」「ペリシテ人の文化」「サムソン」「サムエル」「契約の箱を奪ったペリシテ人」といった細目について分かりやすく説明されているので、必要な箇所だけを読むこともできます。
本書は聖書の歴史を包括的に学べる点で有益な解説書ですが、その優れた点を三つ列挙します。一つ目に、本書には近年の研究成果が効果的に反映されています。著者が「学術的な論争に立ち入ること」は「本書の取り扱う範囲外にある」と述べるように、学術的論争の代わりに学術的情報が提供されます。二つ目に、本書には中間時代のトピックが含まれますが、これは、得てしてイメージされやすい旧約時代と新約時代との間の断絶としての歴史を、ヘレニズム化を経た連続的な歴史として正しく捉え直すことに貢献します。三つ目に、本書には補足的なトピックとして、聖書世界の言語・文字、カナンの地理・気候・農業、ローマ世界の旅などが含まれます。読み進めていけば、地図と写真の効果もあって、躍動感ある聖書世界が浮かび上がるのではないでしょうか。