書評books 漫画〝なんて”から 漫画〝だから”に変わった本書

hi-b.a.代表 水梨郁河

 


『キング・オブ・キングス 漫画イエス・キリスト伝』
張 文偉 作
塚本祐子 訳
A5判・336頁+カラー口絵4頁
定価2,420円(税込)
フォレストブックス

 

「これなら面白く読めそう」。この本を読んでいると、横から覗き込んできた高校生がそのように言った。
聖書漫画の目指すことに、わかりやすさがある。文字では想像できない情景を描き出し、読者を聖書の世界へと引き寄せる。だが、わかりやすさが先行すると聖書に詰められている奥深さがこぼれ落ちていく。ならばと、奥深さを追求すると、わかりやすさが失われ、読者のページをめくる手は止まってしまう。
しかし、本書はわかりやすくかつ、奥深い聖書漫画として作られている。そこには舞台となる新約聖書をしっかりと捉え、聖書からだけでは読み取ることのできない時代背景を散りばめる工夫が施されているからだ。まさに説教で補足される言葉の意味、時代の解説が漫画の中で丁寧になされている。長らく聖書に親しんでこられた方にも、納得と新しい発見が必ずあるのではないだろうか。
本書は、ローマの支配下で本当の王(メシア)を渇望する人々の様子からスタートする。年老いてから子どもが与えられるエリサベツとザカリヤ。聖霊によってイエスを宿すマリアと夫ヨセフ。神の計画が着々となされていく中で、翻弄されながらも神に従う人たちが描き出されていく。飼い葉桶の前にひれ伏す羊飼いたち、東方から王の誕生を祝うために駆けつける博士たち。物語が立体的に描き出され、読者は吸い込まれるように聖書の世界に没入していく。荒野で叫ぶ者(ヨハネ)の声が響き渡り、待ちに待ったイエス・キリスト、王が登場する手前で本書(第一巻)は役割を終える。読了した者たちは早く第二巻を、王の活躍を見たい、という気持ちに駆り立てられる。まさに王を渇望する新約の時代に連れて行かれてしまったようだ。
聖書に興味があっても聖書を読んだことのないあの友人に、洗礼を受けたあの兄弟姉妹に、長らく教会から離れてしまっている中学生や高校生に、そして聖書をわかったつもりになっている自分自身に、ぜひ本書を薦めたい。「漫画なんて」と一蹴しないでほしい。本書を手に取れば、「漫画だから」のわかりやすさと奥深さに圧倒されるだろう。