書評books 真実な体験的イエス伝

元東京聖書学校校長 島 隆三

 


『エッケ・ホモ(この人を見よ) キリストの生涯』
榎本保郎 著
四六判・228頁
定価2,200円(税込)
いのちのことば社

 

著者はクリスチャン・アシュラム(教派を超えた祈りの運動)の指導者として著名な方である。著者自身の書かれた『ちいろば』『ちいろば余滴』や著者と深い親交のあった三浦綾子著『ちいろば先生物語』等で、広く一般に知られている(著者は「ちいろば=イエスを乗せた小さなろば」に自らをなぞらえた)。道半ばで早逝されたのは惜しまれるが、何冊かの貴重な本も残された。 
ところがこの度、遺稿とも言うべき著者の原稿がご子息、恵氏の目に止まり、出版の運びとなったのである。未完で終わっているのは惜しいが、伝道とアシュラム運動に東奔西走された著者が、寸暇を惜しんで書き残されたのが本書である。机上で書かれたというより、激しい戦いの中から生まれた本である。ちいろば先生を知る人にも知らない人にも、手にとって読んでほしい一冊である。
主として、ルカによる福音書によって主イエスのことばと業を追っていくが、筆者はしばしば涙して本書を読んだ。
今日まで何冊かのイエス伝を目にしてきたが、このような感動を与えられたのは初めてのように思う。その理由を問うてみると、どのページからも著者自身の真摯な生きざまと証しとが読み取れるからである。その意味では、これは著者の体験的なイエス伝と言い得る。著者自身がまず主イエスと真剣に取り組み、その体験をもって、読者に「あなたは如何ですか」と問いかけてくるのである。私たちも襟を正される思いがする。
著者が召されて半世紀になろうとしているから、直接著者の説教を聴いた方は少ないと思われるが、まれに見る力強い説教者だった。その力強い説教が生まれてくる秘密は、第一に著者自身の命がけのみことばへの聴従があり、その信仰の証しとしての説教だったこと。そして、何よりもまず、主イエスにすがりついていく幼子のような祈りがあり、それが説教者のことばを超えて説教に力を与えたと信じる。著者は常々、みことばへの感動なしには語らないと言っておられた。その説教の片鱗が、本書に散りばめられている。じっくり味読していただきたいと願う。