ブック・レビュー 『ちいさないのち』
――窓辺の赤ちゃんたち
石黒 妙子
群羊会 南福音診療所 産婦人科医
胎児の声に耳をかたむけて
休診日だというのに、「診てください」とやって来たのは、制服に金髪のカップル。十六歳。超音波でうつしだされたのは、妊娠九週目と思われる胎児。「これからの生活をどうすればいいのか……。」大きな、重そうなつけまつげで、彼女の表情はとらえがたい。男性は十五歳だそうな。「妊娠した女の子を責めてはいけない」「中絶は人殺しだなどと教えてくれるな」「妊娠に気づいたら一日も早く中絶させるように」。世の性教育にたずさわる人々の言葉。一方、「受精したときから、『いのち』なのよ」と教え続ける小学校の先生も。
たとえ責められなくても、望まぬ妊娠をした女性は苦しみ悩む。産むと決めれば、彼女の払う犠牲は大きく、負担も重い。産まないことにすれば、母としての悲しみは深い。
「胎児にいのちがあるなどと教えるな」といわれても、黙って消し去られる「小さないのち」を考えずにはいられない。「このいのちはどうなるの?」「生まれたかった」「おかあさんはしあわせになってよ」という言葉に込められた胎児の思い。
本書は、ひどく悲しい、むごいことが、美しく優しい絵で表現されているが、その一方で思わず目をそむけたくなるページもある。でもしっかりと見つめてほしい。いのちは神さまから与えられた貴いもの。人が勝手に操作すべきものではないことを知ってほしい。
産んであげられなかった悲しみに沈んでいる女性は、十分に慰められ、いのちを守る人へと変えられてほしい。そしてあなたも、あなたの友人も決して同じことを繰り返さないで。本書には、登場しないけれど、男性は愛する女性に、このようなつらい思いを絶対にさせないで。
窓辺の赤ちゃんたちは、おかあさんが、弟や妹を抱っこして、幸せな笑顔をみせてくれたとき、ほっとすることでしょう。