天国へのずっこけ階段 第8回 牧師夫人は社長夫人!?
松本望美
北朝鮮宣教会所属/韓国在住
韓国では、牧師の地位が高い。大きな教会の牧師になると、まるで大会社の社長の風格。そして牧師夫人は「奥様」と呼ばれ、いわゆるセレブである。日本の教会とは、まったく違うので最初は面食らった。私の歓迎会だというのでレストランに行ってみると、上座から牧師夫婦、長老と並び、なぜか招待された私が一番下座ということもあった。
日本の牧師夫人のイメージと言えば、愛餐会での切り盛り、信徒たちの相談役、影で牧会を支える縁の下の力持ち……という感じだが、韓国は違う。社長夫人とでもいえる雰囲気の方がほとんどで、いつもきれいな洋服を着ているし、髪の毛のセットもばっちり決まっている。信徒たちは、おそれおおくて相談になんか行けない。
愛餐会で私がほかの人の食事を運んであげていると、「宣教師なんだから、そんなことしなくていいの!」と怒られたりする。それに、「これ、信徒からのプレゼントだったんだけど、私はいらないから」と高価なものをもらったりする。
儒教の影響だと思うが、「地位」の高い人へのはっきりした対応は、私にも韓国で染みついてしまったかもしれない。たとえば、ほかの国に行き、信徒が牧師や牧師夫人にカジュアルな対応をしていると、こちらがドキドキしてくる。ある日本人教会でも、信徒が牧師にタメ口で話していたり、「やっだー、先生!」と牧師の肩をたたいてふざけている姿を見ると、「ちょっと! 牧師になんてことを!」と間に入りたくなる。
愛餐会で切り盛りしている牧師夫人に「私がしますので、お座りください!」と言って座らせようとし、自分の食事よりも先に牧師の食事をお皿にてんこ盛りにして持っていかなくては! とあせる自分がいたりする。
牧師が偉いとか、地位が上とか、神様はそうごらんになってはいない。みんな召し出された者たちで、ひとつの教会に集っている家族にちがいない。そして、神様からの召しによって、それぞれの役割に生き、神様に仕えているのだ。
でも、日本で牧会している韓国人の牧師夫婦は、日本社会を理解し、日本を愛し、みんな謙遜で、信徒によく仕えてくださっている。その姿に頭が下がる。
韓国の某有名牧師に、日本で牧会している韓国の牧師のことを話すと、すごく感心された。「望美宣教師、今度、日本に帰るときに、彼らに私からのお土産を渡してください」「いいですよ。何ですか?」ときくと「韓国のものが懐かしいと思うから、”ゆず茶”を。望美宣教師の知っている韓国人牧師たち全員に!」といわれた。私の知っている韓国人牧師は、全員で二十人近くいるし、ゆず茶は一びん、一キロだし……。
おそれながら、私は偉大なる牧師に申しあげた。
「すみません、韓国海苔でもいいですか……?」