ブック・レビュー 『お父さん、あふれる愛をありがとう』
柏木道子
大阪キリスト教短期大学前学長
すがすがしくあふれる愛が全編にみなぎる
この本を一気に読ませてもらった。同じ著者の『ありがとう純子』を読んだ二十五年前と同じように人間的にはとても悲しいことが起こっているのに、全編にみなぎるすがすがしくあふれる愛を感じて感動した。夫・勝治さんの死、配偶者の召天という残された妻にとっては耐え難いことなのだが、悲しみ、苦しみ、喜びを共にした五十二年の結婚生活の別れをあたたかく明るく感謝で包み込んで記されている。最後の二十五年は娘・純子さんが臨終の床で証し、両親に遺した信仰を握り締め、娘夫婦の残した一人息子・守君を祖父母としてではなく、文字通り父母として育て上げることができたという喜びも加わっている。養育の途中には、本には書かれていないご苦労がどんなにかあっただろうと想像するが、この世のいかなる労苦も神さまの御手の中で最善の道へと導かれて生涯をまっとうした夫であり父であった姿を、著者は妻として麗わしく、感謝にあふれて書いておられる。ご家族の皆さんや勝治さんを見舞われた友人の多くが平安に満たされておられた姿も印象深い。著者自身はすでに三人の愛する家族を天国に送っておられるのだが、まもなくご自分も召された時には必ずやそこでみんなと再会できるという確信がひしひしと伝わってくる。生後七か月で両親をがんで失った守君が二十五歳の立派な青年として、祖父であり養父の告別式で述べた弔辞は胸打つものがある。二十五年という年月は当人および両親にはとてつもなく長いものであったと想像するが、守青年の人格形成という面からは人生の最も重要な時期であり、両親の愛と思いは凝縮されて守青年の中に生きていることがわかる。守青年は葬儀の挨拶の中で「残されたお母さんを僕が幸せにします。お父さんから教えられたように何があってもどんな時にも強く生き抜きます」と述べている。母・八重子さんは最愛の夫との別れという悲しさを越えて、守君の姿にどんなに深い慰めと大きな喜びを感じられたことだろうと思い、胸を熱くした。