ブック・レビュー 『天国と極楽』
キリスト教と仏教の死生観

『天国と極楽』キリスト教と仏教の死生観
大和昌平
福音交友会・京都聖書教会牧師/東京基督教大学講師

文章の数式的な美しさと明晰さに頭が整理されていくのを感じる

 終末論を専門とされる神学者の岡山英雄牧師が、『小羊の王国』(いのちのことば社、二〇〇二年)に続く第二作を出されました。『天国と極楽』の新しさは、キリスト教と仏教の死生観を対比するという課題に、あくまで神学者のマインドをもって切り込まれた点にあります。この本の魅力は、なにより文章の数式的な美しさです。余分なことばをそぎ落とした明晰な文章を読み進むうちに、読者はこのテーマについて頭が整理されていくのを感じるでしょう。

 本文は「天国の祝福」「天国への道」「天国と家族」「天国と聖霊」「天国と現世」の五章からなり、各章にはそれぞれ四つの項目があります。全章は「天国」に始まり、全項目は「国」で終わる。この構成美は、著者がスタイリストであるというよりも、組織・構造を飽くことなく探究する神学者としての内面の反映でしょう。

 今回、『天国と極楽』を著された背景は、若き日に著者が東京大学文学部宗教学科でキリスト教と仏教の比較研究に取り組まれたことにあります。その後、聖書宣教会に学ばれ、牧師の経験を踏まえて留学、阪神淡路大震災の衝撃、さらなる終末論研究のために渡英、そして今日講壇と教壇に立たれる三十余年の歳月があって、今この仕事を終えられての著者の感慨はこうです。

 「今回久しぶりに比較研究をして、仏教の偉大さを再認識するとともに、さらにそれを超えたキリスト教の神の恵みに圧倒される思いです」

 日本に浸透する「南無阿弥陀仏」の宗教がどんな終末論を持っているのか、キリスト者としてそれをどのように受け止め、どのように弁明すればよいのか。そんな問いをもって、多くの方にこの本を読んでいただきたいと思います。

 禅とキリスト教、空無思想とニヒリズム、そして「地獄」を、著者は今後の課題とされました。これらをテーマとした著者の未来の労作が時至って出現し、日本のキリスト教会をさらに益されることを心から願い、期待するものです。