ブック・レビュー 『何からの救いなのか』
神の恵みの奥義
改革長老教会(カベナンター)日本中会・北鈴蘭台伝道所牧師/神戸神学館教師
宗教改革の神学を踏まえ、「救い」を旧新約聖書から丁寧に回答する
本書の著者R・C・スプロールは、「リゴニア・ミニストリーズ」という信徒向けの神学教育団体を主宰する牧師です。教会学校と神学校との間に存在するキリスト教教育上の大きな空洞を埋める同氏の働きの原点はセミナーの数々で、それを録音したテープ、ビデオ、CD、DVDが多数あります。書籍(神学書だけではなく童話も書いています)も数多く執筆しています。もっとも、邦訳は『非キリスト教的思想入門』(いのちのことば社)のみであったため、日本のクリスチャンには今も無名に近い著者の一人でしょう。さて、本書の原題は Saved from What? で、さしずめ「救われるって、何から?」です。もちろん、これは福音の核心に触れる重要な問いですが、本書の冒頭に登場するエピソードが示唆するように、少なからぬクリスチャンにとって、「救い」とは自分でも説明不可能な“教会用語”になってはいないか、という著者スプロールの問題意識が根底にあります。
本書の内容は、スプロールが福音の真髄を三つの角度から解説するスタイルとなっています。それらは
1.「何からの救いなのか?」、
2.「何による救いなのか?」、
3.「何のための救いなのか?」
という三つの問いへの答えとして論じられていくわけですが、第一の問いの答えは・読者の多くには想定外かもしれませんが・「神からの救い」(すなわち、神の聖なる怒りからの救い)、第二の問いへの答えは「神による救い」、そして第三の問いへの答えも「神のための救い」と、旧新約聖書から丁寧に回答されます。このような理解は著者独自の奇抜なものではなく、宗教改革の神学・とりわけ契約神学として展開したもの・を踏まえた議論であることが特筆に値します。
罪・さばき・義認といった基本的な教理に関して神学的な揺れが一部で生じているような今日こそ、「救い」を「神のご計画の全体」(使徒二〇・二七)から説明しようとする本書が読まれる価値がありましょう。