ヤベツの祈り ヤベツの祈り(前半)
編集部編
「ヤベツの祈り」とは
ヤベツは、旧約聖書の第一歴代誌の最初の数章の系譜の中に突如として登場する人物です。しかもその記述は以下のたった二節のみ(四・九―一〇)であり、彼に関するそれ以外の情報は、他の個所にはまったく出てきません。
「ヤベツは彼の兄弟たちよりも重んじられた。彼の母は、『私が悲しみのうちにこの子を産んだから。』と言って、彼にヤベツという名をつけた。ヤベツはイスラエルの神に呼ばわって言った。『私を大いに祝福し、私の地境を広げてくださいますように。御手が私とともにあり、わざわいから遠ざけて私が苦しむことのないようにしてくださいますように。』そこで神は彼の願ったことをかなえられた。」
この「ヤベツ」という名前に込められているのは「悲しみ」の意味。具体的にそれがどのようなものであったのか知る由もありませんが、決して望んだわけではない生まれながらのハンディが、彼にはあったと考えることができます。けれどもその逆境をバネに彼は、自分を祝福をしてくださいと、率直にこの現実的な祈りをささげました。
神さまは、その祈りをたしかにきかれ、困難を克服した彼は、「兄弟たちよりも重んじられ」るようになります。そしてこの祈りを通して彼の人生は、逆転ともいうべき大きな変革をとげることになりました。
ベストセラー『ヤベツの祈り』
この祈りをテーマとした書籍『ヤベツの祈り』が、本国アメリカで驚異的なセールスを記録し、何かと話題を集めていましたが、昨秋に日本でも出版されました。「実際に祈る」ために、そしてその「祈りが聞かれる」ための具体的な方法を提案し、神により大きく用いていただくことを目的として、「自分のための」大胆で、単純な祈りの大切さが説かれた本書は、クリスチャンとはいえ、複雑で息が詰まるような重苦しい現代社会に生きる人々の心をとらえたようです。
日本語版もすでに三万部を突破し、日本におけるキリスト教書の出版としては記録的なヒットとなりました。そして初刷からわずか一ヶ月で再刷、その後わずか数日から数週間ごとに刷を重ねています。また同じ著者による一連の作品『ヴァインの祝福』『ヤベツの祈り ディボーションガイド』『キッズ ヤベツの祈り』(いずれもいのちのことば社刊)も好評です。
インターネットで「ヤベツの祈り」をキーワードに検索すると、教会やキリスト教諸団体関連のおびただしい数のサイトが見つかることに象徴されるように、『ヤベツの祈り』は私たちの国のキリスト教界に対してある種の影響を与えていることはまちがいないようです。
「ヤベツの祈り」の実践
――ワールド・ティーチの働き
著者のブルース・ウィルキンソン博士は、一九七六年、ウォーク・スルー・ザ・バイブル・ミニストリーズ(Walk Thru the Bible Ministries)を創設しました。その名称には、「世界中の人々が、自分で歩いて行くことのできる距離の場所で、最良の教師を通して聖書を学ぶことができるように」との思いが込められているといいます。
そして一九九八年には、キリストの大宣教命令(マタイ二八・一八)をもって、「十二万人の聖書教師を世に送り出すために、世界で最大規模の聖書教師養成機関を設立する」という具体的なビジョンのもとにワールド・ティーチ(World Teach)の働きを開始しました。まさに宣教の「地境を広げてください」という「ヤベツの祈り」を実践し、それに応えられた神さまから大きな祝福を受け、各国で活動を続けています。
「ヤベツの祈り」に込められた願い
多くの人に読まれている反面で、こうした現実的な祈りに対して、単なるご利益宗教と何ら変わりがないとの批判も多いようです。また自らの必要ばかりを祈るのは、信仰者として未成熟な証拠だと言う人もいます。
けれども「ヤベツの祈り」で重要なのは、自らが神さまにより大きく用いていただくことを願う祈りであるということです。つまり「彼が願ったものは、イスラエルの神を世に知らしめるためのより大きな影響力、責任、機会でした」(『ヤベツの祈り』四〇頁)ということでしょう。神は私たちを通して、そのみこころが実現するよう、ときに目に見えるかたちで祝福してくださり、そして私たちを用いようとしておられるのです。