DVD 試写室◆ DVD評 122 「ローマ帝国に挑んだ男―パウロ―」(後編)

DVD「ローマ帝国に挑んだ男―パウロ―」
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師

バルナバとの友情、ローマへの熱い思い

 前回に引き続き、『ローマ帝国に挑んだ男 ―パウロ―』をご紹介したい。今回はイエスと出会い、パウロと改名した後の物語である。

 この作品で、私の印象に強く残ったのは、パウロとバルナバの友情である。バルナバは、パウロのよき理解者であり、苦楽を共にするパートナー。大胆に前進するパウロにブレーキをかけつつ、「俺は臆病者だ」と笑う。しかしパウロは、そんな彼に答える。「いや。そんなことはない。君はだれよりも勇敢だ」。2人は実にいいコンビなのだ。

 しかし、2回目の伝道旅行直前に、意見の違いから決裂(この経緯は、聖書の記述と違うのだが…)。バルナバは、「君を愛しているよ」ということばを残し、寂しげな表情で彼のもとを去っていく。

 バルナバと袂を分かったパウロではあるが、その後も精力的に伝道旅行に出かけ、力強く福音を宣べ伝えた。しかし、エルサレムに帰って来た時に捕らえられ、裁判のためにローマに護送されることとなる。

 そんなパウロを見送りにきたのは、やはりバルナバだった。決裂を経験したとはいえ、よきパートナーであることは変わりなかったのだ。しかし、「待っているぞ」と声をかける彼に、パウロは答える。「いや。もう戻らない。神がそうおっしゃった」。思わず顔をゆがめ、涙をこぼすバルナバ。「天国で会おう」と抱き合う別れのシーンは感動的だ。

 ちなみに、このバルナバ。どこかで見たことがあると思ったら、映画『ポリスアカデミー』で、主人公をいびるハリス警部補を演じたC・W・ベイリーなのだ。この作品では、実に味のある演技で光っている。 ラストシーンも非常に感動的であり、象徴的である。手鎖をはめられ、ローマ兵に前後を固められて歩くパウロ。ふと眼を上げると、前方かなたにローマの街並みが見えたのだ。

 このローマこそ、パウロがこだわり続けた都。ことあるごとに、「私はローマに行く。世界の中心で語ることによって、福音は世界に広がるのだ」と言い続けてきた。多くの人が反対し、バルナバもなんとか説得しようとしたが、パウロのローマに対する思いは変わらなかった。

 その街が、今、目の前にある! 思わず立ち止まり、感慨深げに眺めるパウロであるが、ローマ兵に乱暴に小突かれ、再びローマへの道をたどっていくのだ。

 この作品、3時間という大作だが、長さを感じさせない。パウロの熱い思いが伝わってくるDVDである。