時代を見る目 184 子どもの虐待<1>
虐待の現状と発見
村田 紋子(むらた あやこ)
日本福音キリスト教会連合 朝顔教会:元児童養護施設職員 短大教員
最近は「子どもの虐待」に関する事件が報じられることが多くなりました。子どもに係る第一線機関である児童相談所が、平成2年度から虐待相談対応件数の統計を取り始めましたが、当時その数は1,101件でした。平成20年度には約42,000件に増加しています。虐待の実数の増加という側面ももちろんありますが、20年間で40倍というこの数字は、「子どもの権利」や子どもの虐待について啓発が少しずつ進み、今までは虐待とみなされていなかったことについても通報されるようになってきた社会状況をも示しています。しかしそれでもなお、周囲の大人が何となく気がついてはいたのに有効な対応ができず、子どもが虐待で死亡する事例は年間約50人も発生しています。
平成20年度虐待相談としてあがってきた約42,000件においては、子どもの身体に危害を加えるなどの「身体的虐待」が38.3%、子どもの成育に不可欠な世話をしないなどの「保護の怠慢・拒否(ネグレクト)」が37.3%、著しい暴言や差別、両親の間の暴力を見てしまうなどの「心理的虐待」が21.3%、性的行為の強要などの「性的虐待」は3.1%となっています。この数値が示すように、身体的虐待や保護の怠慢・拒否など比較的はっきりした証拠などが存在する状況については通報が多くなっています。一方で性的虐待のように重大な被害を及ぼすにもかかわらず、発覚が極めて難しく、数値としてはごくわずかしか表れていないものもあります。
私は22年間、虐待を受けた子どもたちを保護養育する場である児童養護施設で働きましたが、その中で痛感したのは虐待が子どもの発達に与える影響の深刻さでした。最近の研究では、単に身体的発育のみならず脳へも大きなダメージを与えると言われています。大人からの愛情と保護の中で成育すべき子どもが、暴力や支配の中で生きていかなければならない時、自己像や世界観にもさまざまな歪みが生じます。その歪みが理解されにくいゆえに、時とすると虐待を受けた子どもたちは表面的には「問題のある子」「悪い子」「能力の低い子」などとみなされることも多々あります。「非行」に走ったり、「発達障害」によく似た症状を示す場合も少なくありません。
現在は、「虐待を受けている子ども」以外に「虐待を受けているのではないかと思われる」という「疑い」の段階であっても、相談や通報が可能です。あなたの周りにいるお子さんで、「あれ?どうしてこの子は?」と「問題」を感じたら、その背後に「虐待」はないだろうか、と考えて頂けたらと思います。