ブック・レビュー 『ファーマーさんはみすてない』

『ファーマーさんはみすてない』
辻 紀子
日本基督教団 蘇原教会 会員
翻訳者

神のなさることは、すべて時にかなって美しい

 神はいのちの誕生にかかわられ、それぞれに自由な意志を与えて、静かに成長を見守っておられる。人は「心に永遠の思い」を与えられてはいても、自己中心の暮らしの中で、自己を過大評価したり、過小評価をしたりして、一喜一憂する。愚かな自分の尺度で得意になり、絶望し、孤独にもさいなまれる。

 「ファーマーさんはみすてない」は、ファーマーさんが土の中から掘り出した時から、美しいリボンを結んだじゃがいもの物語である。美しいこのジャガイモは、町一番のレストランに運ばれて、コック長は野菜棚の最上段に飾ってくれた。他の野菜を見下ろす棚で、「私は世界で一番おいしい料理になる」とじゃがいもは独りで決めている。

 じゃがいもだけで「一番」になるという誇りが災いして、誰からも注文されず棚ざらし。やがて芽が吹き出て、孤独と絶望、仲間からも排斥されて、北風吹く外に放り出されてしまう。けれども北風に転がされて行きついたのがファーマーさんの野菜畑。「一番の料理になれなくて……」と謝るじゃがいも娘に、「よしよし、だいじょうぶだ。わたしの所に戻ってきたんだから……」とファーマーさんは温かい土の中に埋めてくれた。やがて、春になり、たくさんの子いもをつけたお母さんになったじゃがいも娘を見て、「わあ、すごいぞ!」と大喜びでほめてくれるファーマーさん。

 神のまなざしは温かく、優しく、戻ってくる者を「よしよし、もうだいじょうぶ。戻ってきたのだから」と迎えてくださる。

 表紙から裏表紙までどの絵もこの物語を隅々まで語って楽しく、あきさせない。私は特に裏表紙の内側のスケッチが最も好きである。神様の愛の仕事の細やかさ、深さ、温かさがさりげなく、しかも絶妙に表現されている。

「神のなさることはすべて時にかなって美しい」(伝道者の書3:11)。