ブック・レビュー 神に向かう賛美、祈り、告白……
中山 信児
日本福音キリスト教会連合 菅生キリスト教会牧師
「人はだれも、『息が詰まる』ような閉塞感を味わうことがあります。そのとき、天地万物の創造主の御前での呼吸を助けるのが詩篇の祈りです」(「はじめに」より)
この一言には、牧師としてカウンセリングを学び、多くの人の相談を受けてきた著者の思いが込められているように感じました。本書は、学問的にも確かな詩篇の新しい翻訳と講解なのですが、同時に、著者が一人の人間として、神の前に歩み続けてきた信仰の証しともなっています。
思うに、ダビデ(や他の詩篇作者)のような詩人にとって、詩篇をうたうことは生きる営みそのものだったのではないでしょうか。神に向かう賛美、祈り、告白として詩篇のことばを紡ぎながら、彼は喜び、嘆き、立ち上がり、歩み出したのではなかったでしょうか。読者は、本書を読みながら、著者と共にダビデが歩んだその足跡をたどることができます。
本書の本編は五部から成り、それぞれに四篇の詩篇の翻訳と解説が収められています。
第一部の表題は「世界と私を美しく創造してくださった神への賛歌」、第二部は「深い孤独感の中での祈り」、第三部は「罪悪感、悲惨さ、絶望感などを、ただ訴えたいときの祈り」、第四部は「心が騒ぐばかりで、主の前に静まることができないときの祈り」、第五部が「幸いな人生へと歩みだすために」となっています。
これらの表題は、通り一遍の神学や聖書知識からはでてこないものです。ここに、牧師として他者と真剣に向き合い、自分自身と誠実に向き合い、神と真実に向き合ってきた著者の思いと生き様とが表れています。
また、著者の手による詩篇の新しい翻訳は、ヘブル語原典の意味を丁寧に映しながら、日本語で朗読するに足る語調を備えた優れたものです。詩のことばは、その流れや響きの中にも力を秘めていますから、このような新しい翻訳がなされたことは、大変喜ばしいことです。翻訳がなされたことは、大変喜ばしいことです。