ブック・レビュー 良き生とは何か―。人生を問うすべての人へ
平山正実
精神科医、聖学院大学大学院教授
「死への思索が生への賢さを与える」と、ある神学者が言った。また、「死の刻印が生への勇気を与える」と言った人もいる。
著者は精神科医として、またホスピス医として、二千五百人の患者を看取った経験をもつ。長年、臨床の場において、死と対峙しながら、体得した経験と敬虔なキリスト教信仰に基づいて語られたことばのもつ意味は大きい。この本を読んで、まず驚かされるのは、著者のことばに対する感受性の豊かさである。私たちが日常の生活場面の中でなにげなく使っていることばの奥に隠されている深い意味について、鋭い洞察が加えられる。
たとえば、「生命」と「いのち」「生きる力」と「生きていく力」「安全」「安心」「平安」との関係、「寄りそうこと」と「支えること」の違いなど、微妙なことばの相違から本質的な差異に至るまで、その意味の違いが浮き彫りにされる。
聖書に「その上に、主の霊がとどまる。それは知恵と悟りの霊、はかりごとと能力の霊、主を知る知識と恐れる霊である」(イザヤ11・2)ということばがあるが、この本には、このような主にある知恵とそれに基づくことばの本質とを識別する力が感じられる。
この本を通読して思うことは、著者が一貫して「良き生とは何か」「良き死とはどうあるべきか」ということを探る真摯な姿勢である。このような本質的問いに対して、誰にでもわかりやすいことばで、ズバリと答える総合力にただ感銘するばかりである。
著者は「人生(人として生きること)やケア、『寄りそい』などに関心のある方にこの本を読んでいただけるとありがたいと思っている」(「あとがき」より)と記している。私は、もっと枠を広げて、キリスト者としてどう生き、他者とどうかかわっていったらいいのかということを真剣に考えているすべての人々にこの本を読んでいただきたいと思う。