ブック・レビュー 人生のそれぞれの四季に起こる問題をとくヒントに
渡辺祐子
明治学院大学教員
本書のもととなったのは、玉川聖学院中高校長を務める著者が行った同校高等部二年生向けの人間学の授業を、さらに保護者向けにアレンジした講座であるから、ちょうど私と同世代か、もう少し若い方々が最初の聞き手であったのだろう。思春期の子どもを育てている時期には、この時期特有の難しさに加えて、幼児期の教育の「つけ」が回ってくるころであり、自らの更年期も気になり始め、親の介護問題も浮上し始める。まさに、全世代が抱える問題が一気に押し寄せてくるといっても過言ではない。
そうした世代にとって、それぞれの時期に直面する問題の数々を、トゥルニエの『人生の四季』(日本基督教団出版局)を範に平易に示した本書は、困った時のよき手引書、格好の道案内となるだろう。
縦横に引用され、紹介される本も、章の最後に引かれる聖句のさりげなさも、絵画や音楽の紹介もどれも印象的で、著者が人間だけでなく、さまざまな芸術や文化、書物との出会いを通して、「人生の四季」への思索を深めておられることが十二分にうかがえる。
もっとも、人生のそれぞれの四季にその時期特有の問題が起きるといっても、矛盾するようだが、一世代限定の問題など所詮ありはしない。たとえば第六章の中心テーマである「死への準備」は、子どもたちや若い世代にも極めて重要なモテーフであり、著者自身もそれを十分意識しながらこの章を執筆している。
当然のことながら、自分の身に起こるあれこれの問題自体は、自分以外の人たちが経験したことのない固有性を常に帯びているものである。本書を読んでも、その具体的な処方箋が見つけられるわけではなく、著者が提示する様々なトピックをヒントに応用問題を解いてゆくほかない。本書によって問題の所在を知らされた私たちが次の段階でなすべきことは、その具体的な処方箋を自分自身で考えることであろう。