ブック・レビュー 地域教会における「福祉カフェ」の提案など、希望に満ちた書
柏木道子
大阪キリスト教短期大学 元学長
東日本大震災一年目の三月十一日、書評を書くようにと、このタイムリーな本が手元に送られてきた。編著者の稲垣久和氏の「はじめに」から終章の「宣教の神学と『福祉カフェ』の提唱」にいたる全編は、この時、まさに編者のことばにあるように〝神の時のしるし(カイロス)〟を受けて、六名の執筆者がそれぞれの専門分野から渾身の取り組みをされた成果である。すでに高齢化社会に突入して久しい日本において、福音派の多くの教会が直面していながらも、具体的な備えを持てないまま苦悩している現状への示唆に富む論述であると受け取った。教会が第一義的としてきた宣教の使命と、今を生きる人間の福祉を実践神学的に統合して、全人的な救済を目指そうとする意欲作である。
ハイスピードで進んできた日本の少子高齢化の周辺諸現象と、大地震発生からの一年間に報道された被災地の人々の現状、それに何らかの関わりを持って行動してきた日本および世界からの支援者、教会関係者の実感を汲み取って深く洞察し、本書は編集されている。
吉田隆牧師は、地震から一週間後には仙台市において「キリスト教連合被災支援ネットワーク」(東北ヘルプ)が結成され、被災支援である愛の業のみならず、魂の救済を目指す全人的ケアが実践されてきたことを報告している。全編は地域協働型教会として、今後、デイサービス、訪問看護、居宅介護支援、高齢者ホームなどとの関連を見据えつつ、教会は福音宣教と社会的責任を包括的に果たすべきことが強調されている。教会が、信徒が、霊的痛みを共有しながら他者に対して実践する福祉の業は、等しく宣教の業であり、これらはこれからの日本の教会に是非とも必要な方向を指し示していると受け取った。それは同時に、時代の要請を直視し、主からの使命感に導かれ、力強く応えるキリスト者の働き人を育成する急務をも示している。
このように、宣教と福祉を神学的に論じつつ、「福祉カフェ」という具体的でユニークな提唱で締め括られている。教職者、信徒そして人生の職業選択を模索している青年男女にも読んでいただきたい、時宜を得た書である。