時代を見る目 218 3・11――あの日の記憶、そして今 [11]
髙橋ゆかり
精神科医
保守バプテスト同盟 八木山聖書バプテスト教会員
2011年3月11日午後4時前、宮城県石巻市の石巻湾から北へ約1kmの国道398号線に広がる街を、約5mの津波が襲いました。「神様、守ってください」と祈り続けるしかありませんでした。
私が勤務する病院は石巻市の旧市街地にあり、石巻湾から北へ約1.5km、日和山(海抜54m)の東の裾野約2kmに位置します。津波はこの山頂の半径約2kmの地域まで迫りましたが、その円の内部にあった病院は難を逃れました。当日病院にいた入院患者330名、外来患者十数名、職員約140名のいのちは守られました。神様に感謝します。
震災2日後に、泥と水をかき分けて道なき道を車で進み、仙台市の家族を捜しました。箴言3章5、6節「心を尽くして主に拠り頼め。自分の悟りにたよるな。あなたの行く所どこにおいても、主を認めよ。そうすれば、主はあなたの道をまっすぐにされる」を心に刻んで捜しました。紆余曲折はありましたが、家族の無事を確認できました。
被災後一か月は、急性ストレス反応と診断された方が病院を多く訪れました。心的外傷「危うく死ぬ、または重症を負うような出来事、あるいは、自分または他人の身体の保全に迫る危険を、体験したり目撃したり、直面すること(『精神疾患の診断・統計マニュアル』 第4版)」によって大変な苦痛、死の恐怖を感じたために、気分の落ち込み、不眠、当時の体験をリアルに思い出す、悪夢を見るなどの症状が現れていました。どんな方にでも心的外傷によって急性ストレス反応が生じ、一か月程度で改善に向かいます。一か月以上持続して病状が深刻になるとPTSDとなります。現在も震災時の苦しみが続いており、地道な治療が続けられています。
病気とはいえなくても、心の痛みを抱える方もいます。「日常生活は震災前とほぼ同じでも、家族が見つかるまで震災は終わらない。毎日涙が出る」と話す方です。医療では対応が難しく、神様の癒しが必要で、毎日のように癒しのために祈っています。
震災後の私の歩みは、震災2日後に道なき道を進んで家族を捜し回ったあの日を思わされます。日本、世界の皆さんの支援とお祈りに心から感謝しつつ、心を尽くして神様に拠り頼んで歩みたいです。