詩画集『いのちより大切なもの』出版記念
星野富弘氏を知る人びと ■詩画集の出版、詩画展開催に寄せて

岩渕まこと
シンガーソングライター

「岩渕さんはクリスチャンだからかなあ、とても神様が近くに感じられる。″風に揺れる”のところでは、本当に風が吹いてくる」。私が星野さんの詩に曲をつけた「ぺんぺん草」を最初に聴いていただいたとき、星野さんはこうおっしゃいました。そしてこの日から、私が星野さんの作品に作曲し、CD化する計画が具体的に進み始めたのです。
CD化に関して、星野さんから「自分の作品も妻との二人三脚で作り上げているので、CDも岩渕さんご夫妻で歌ってほしい」というリクエストが出されました。このアイデアを受けて、夫婦のデュエットアルバムとして「ぺんぺん草のうた」「日日草のうた」「サフランのうた」の三作品がリリースされました。あのとき「ご夫妻で……」ということばをいただかなければ、夫婦で歌うことが今ほど多くはならなかったと思います。その後、星野さんご夫妻とは詩画展や花の博覧会などでご一緒させていただくことが何度かありました。しかしご一緒した日は、毎回と言っていいほど天候が良くなかったのです。そこで、星野さんが私につけたあだ名は「嵐を呼ぶ男」。自宅にいて雨が降ると、「ああ、今日も岩渕さんが歌っているなと思っています」と笑っておられました。
ところで、二枚目のCDアルバム「日日草のうた」に収録した「春の縁側」という作品は少しコミカルな感じの詩なのですが、私はそこに込められた「春」が何か特別な「春」に思えて、コミカルとは正反対の作曲をしました。
後で星野さんから、「実はこの作品は父を天に送って一年目の春の作品で、父を送って一年、ということばを入れるかどうかで迷い続けたんですよ。だからメロディーのイメージが合っていて驚きました。こういうメロディーを作る岩渕さんは、動物的勘が鋭いなあ……」というおほめ(?)のことばをいただきました。それはとりも直さず、星野さんの作品の行間に目には見えなくても、聴こえてくることばや旋律があると言うことです。
それぞれの作品にすでにメロディーが用意されているような不思議を感じながら、作曲をさせていただきました。
今もコンサートで必ず歌う歌が何曲かありますが、そのたびに「群馬は雨かな」と星野さんを思い出しています。

岩渕氏の著書

音楽人生をつづったエッセイ集
『気分は各駅停車』
文&写真 岩渕まこと
四六変型判 160頁 1,400円