ブック・レビュー 「恵みによる救い」をもたらす手引きとなること
山形浩之
単立 釧路キリスト福音館牧師
一般の方がモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)について、ウィキペディアや、モルモン教会公式ホームページを覗くと、「キリスト教と似ている」という印象を持つでしょう。本書は、ネット情報では判別しづらい、モルモン教とキリスト教の違いを明確に教えています。モルモン教に対する批判的態度はとっていないため、モルモン教の方でも抵抗なく読めます。著者は、モルモン経典とモルモン教を代表する神学者の著作に基づき、モルモン教の多様性を配慮しつつ、その根底に流れるものがキリスト教とは相容れぬものであることを鋭く解き明かしています。
三部構成からなり、第一部では、モルモン教の起源として、モルモン教会の設立者ジョゼフ・スミスとその後の歴史的変遷について簡潔にまとめていて興味深いです。
第二部では、モルモン教の教義について触れ、特に第六章の「モルモン教の世界観」は必見です。モルモン教会「信仰箇条」の最初の三項目を読むと、「モルモン教も三位一体の神、人間の罪、十字架の贖罪を信じている?」と錯覚しがちですが、この章を読むと、モルモン教の世界観が聖書のそれとは著しく異なり、多仏思想の仏教的世界観に近いことがわかります。
第三部の「モルモン教における救い」では、新生、義認、聖化、天国、地獄、バプテスマ、死者問題という一見難しそうなテーマにかかわる神学的相違を、福音主義の視点からわかりやすく解説しています。
一点気になったのは、モルモン書とマッコンキーの文章から「モルモン教徒は聖書だけを信じているクリスチャンを愚かだと思っている」(一〇一頁)と結論づけている部分です。この点については、モルモン教徒の読者からも「極端」と英文書評でコメントされています。また、私が実際かかわりを持たせていただいた元モルモン教徒の方の中には、聖書を信じる私に敬意を払ってくださり、真剣に「聖書ではどういっているのですか?」と尋ねつつ健全な福音理解へと導かれた例があります。本書が、「恵みによる救い」をもたらす手引きとなることを願い祈ります。