神様がくれた風景 6 Mの白いズボン
やまはな のりゆき
雨には、ほろ苦い思い出がある。幼なじみのMのことを思う。
小樽の東の小さな町に父が家を建てた頃、辺りにはまだ家も少なく、あるのはほんの数軒。Mの家はそのうちの一軒で、同い年だった僕らはすぐに友達になった。気が合い、毎日遊び、兄弟のように時間を共有した。
けれど、じきに一軒また一軒と家が建ち、同じ年頃の少年たちが次々に引っ越してきて、僕は次第にMと距離を置くようになった。少々不器用で運動オンチだったMはその新しい輪の中に入ることができず、次第にいじめられるようになっていった。僕もいつしかみんなに合わせてMをいじめる側になり、Mはずいぶん悲しい思いをしたと思う。
小学3年の雨の日のことだ。僕はその日、Mと一緒に家に帰る約束をした。おそらく僕から一緒に帰ろうと誘ったんだと思う。Mがその日履いていた買ったばかりの真っ白なトレパンと、うれしそうな笑顔を今でも覚えている。ところが、僕は何かの理由で居残って掃除を手伝えとクラスの女子に命令されてしまった。今日は帰りたい、Mが待っている、頼んでもその女子は「ダメ」の一点張り。困った僕はMに先に帰ってと話した。
だがMは、どうしても僕と一緒に帰りたかったのだろう。その女子と交渉を始めた。引き下がらないMにその女子は窓から見える赤土の土手を指差し、「あそこあんたがお尻で滑ったら帰してあげる」と言った。外は雨、土手は赤土。Mが履いていたのは純白のトレパン。Mは「わかった」と言ってその土手に登り、ためらいもなくそのズボンで土手を滑って見せた。しかも続けて3回も滑ったのだ。
「さぁ、のりちゃん帰ろう」Mの笑顔に、僕は号泣した。
Mはお母さんに怒られるだろう。真っ白なズボンを泥だらけにしてまで、僕と一緒に帰ることを選んでくれた。彼をいじめていた自分が本当に汚らしく思えた。自分の罪というものが目の前に迫ってきた大きな体験だ。
その後、Mは僕のかけがえのない親友になる。27歳の時に事故で亡くなってしまったが、親友であることに今も変わりはない。