21世紀ブックレットシリーズ50巻刊行
―キリスト教界と日本社会の歴史をたどる ◆信州夏期宣教講座の歩みとともに

山口陽一
東京基督教大学教授

一九九七年、発刊当初の「〈21世紀ブックレット〉刊行のことば」には、「特に、社会性、時代性、学術性、緊急性という要素を企画の選定の基準に置くとともに、将来ある学究また指導者に、できる限り多く執筆の機会を得ていただきたいと切望する」とあります。正直なところ、こんなに長く続くとは思いませんでした。編集者の長沢俊夫氏の熱意と労によるものと敬意を表します。

  *

集めてみると、私の手元には五十冊のうち二十七冊がありました。そのうち十六冊の出版に関わり、十一冊は執筆しましたので、思い入れの強いシリーズになります。後藤敏夫『終末を生きる神の民』(#34)、朝岡勝『「バルメン宣言」を読む~告白に生きる信仰』(#43)は時代性を神学的に考察しています。精神医学やメンタルケア、礼拝賛美、教会のカルト化、教会教育など、宣教と教会形成に関わるものも多くあり、稲垣久和編『これからの福祉と教会』(#47)は、東日本大震災以後の日本宣教への実践的な提言です。渡辺祐子他『日本の植民地支配と「熱河宣教」』(#46)は、植民地時代の宣教に関する学術的な著作であり、これを含め、戦争と平和、天皇制や政教分離などに関するものが大半を占めます。
そしてその中に、信州夏期宣教講座編になるものが十二冊あります。一九九三年から信州上田の霊泉寺温泉中屋旅館に集い「日本の宣教を再考」してきたこの「信州夏期宣教講座」は、今年で二十一回となります。
はじめ、結城晋次氏、次いで小寺肇氏を代表とし、渡辺信夫氏や登家勝也氏などが、教派を超えて集った世話人会の一人となり、私はブックレットを担当しました。
小川武満氏が医師として中国に残留した証言や、李仁夏氏から韓国教会史の見方を学んだ『中国・韓国・日本の教会』(#5)、島田善次氏から歴史と今を聞いた『沖縄は問いかける』(#11)、岩崎孝志氏が蓄積された歴史学を語り始めた『「日本」とキリスト教の衝突』(#14)、共同研究『説教で何が語られてきたのか』(#21)、宮島利光氏にアイヌ民族の歴史を教えていただいた『日本宣教の光と影』(#25)、矢内原忠雄を批判的に考察した『キリスト者の時代精神、その虚と実』(#28)、美濃ミッションの石黒イサク氏を迎えて『主の民か、国の民か』(#30)、野寺博文氏から朱基徹を本格的に学んだ『それでも主の民として』(#36)、安藤肇氏の証言を聴いた『教会の戦争責任・戦後責任』(#38)、岡山英雄氏が聖書の平和論、高神大学大学院長の李象奎氏が初代教会の平和論を語った『キリスト者の平和論・戦争論』(#40)、袴田康裕氏がウェストミンスター信仰告白から教会の国家に対する責任を説いた『和解と教会の責任』(#42)、そしてシリーズ五十冊目となった『東日本大震災から問われる日本の教会』です。
時流から一歩退き、絶えず聖書と宗教改革に立ち戻って社会的責任を担う教会の宣教を互いに学びあった小さな講座から、多くの同志に発信を続けることができたのは、「21世紀ブックレット」があったからです。