これって何が論点?! 第5回 「特定秘密保護法」ってなに? 1
星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。
去年10月、自民党が「特定秘密保護法案(秘密保全法から名称変更)」を国会に提出し、11月、衆議院で可決しました。国民のパブリックコメントでは、8割もの人が反対しているのに……。
「特定秘密保護法案」は二〇一三年十月二十五日に閣議決定して以来、目下、衆参両議院にてものすごい勢いで審議が進んでいますので、これが皆様の手に届く頃には、すでに法案可決後、となっているのではないかと心配しています。であればなおさら、この法律が目指している内容の問題点を私たちはきちんと把握する必要があるでしょう。
Q 秘密を守るのは誰に対してか?
政府与党は、領土問題などで緊張が高まっている北東アジアの関係悪化など、国際情勢が複雑化する中で、国と国民の安全確保に関係のある情報を守る重要性が増しているため、主に外交・軍事機密の漏えいを防止する必要があるために、この法律を制定するとこの法案に記しています。
外交や国防安全保障の司令塔として米国で設けられている国家安全保障会議(NSC)を、日本にも設置(日本版NSCと呼ばれています)しようとしています。米国との協力関係を強固なものとするためには、機密情報の交換を図りたいというのです。そのために機密情報の漏えいを防ぐ体制を確立することは急務だ、と主張しています。
しかし、この法律の問題点を一言でいうならば、「国を守るという大義のために、情報を国民から隠す」ことにあります。機密情報を守る相手は想定敵国や外国のスパイに対してとしながらも、実際には、私たち国民に対して情報が隠されるということを見落としてはなりません。
Q 国民主権か、政府主権か?
もちろん政府には、機密にしなければならない情報がある程度存在する、ということを完全否定することはできないとしても、その範囲が必要を超えて広がると、市民の知る権利を阻害するという重大な問題が生じます。そうなれば、日本国憲法の一大原則である「国民主権」が根底から揺らぐという深刻な危機に直結します。ですから機密情報保護は、よほど慎重に、市民の知る権利を決して阻まないように、細心の注意をもって運用されなければなりません。
むしろ、政府が機密情報の名の下に情報を秘密にすることに対して、充分な規制と制限をかける必要があります。常にそのバランスに注意が払われなければ、市民の知る権利は守られず、国民が犠牲になる一大問題に繋がることは、先の東日本大震災における福島の原発事故問題をはじめ、推薦図書にもあげた過去の事件からもあきらかです。
Q 国会議員も国政調査権を制限される?
民主国家の対局は秘密国家です。情報がことごとく隠されるようになると、政府が憲法や法律を守って政治を行っているか。行政が不正を行ったり、国民を欺いていないか、それらが何一つチェックできなくなってしまいます。今回の法案で最も問題視されているのは、国会議員に対してですら、情報が開示されなくなる可能性があることです。
日本国憲法第四十一条は、国会を国権の最高機関と定め、国会のみに立法権を与えています。国民から選出される議員によって作られた法律に基づき、国政が規定されるところに、国民主権の要があると言っても過言ではありません。しかし同法案では、「行政の長が秘密に指定できる」とした場合、国会議員に対しても情報開示されず、国会で開示された場合でも、行政の長の判断で「秘密会」とされたなら、他の議員にも公開できない場合が起こり得るのです。国政調査権を持つ国家議員に対して情報が制限されることは、民主主義の根幹を揺るがすことです。
Q 今までの法律では取り締まれないのか?
では、戦後日本の機密情報保護の運用が、今までゆるゆるであったため、今回の法案が必要とされたのでしょうか。これまでは、高度な秘密を保護する法律がなかったために、ザルのように情報がダダ漏れ状態だったのでしょうか。そのような事実は一切ありません。有名なものとしては、国家公務員法には情報漏えいを取り締まる規定があり(懲役一年以下)、安全保障の分野では自衛隊法でより厳しく取り締まる規定があります(懲役五年以下)。さらに米国から提供された防衛情報においては「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」という特別法により、今回の「特定秘密保護法案」と同じ、懲役十年以下まで厳しく取り締まることが、すでにできるようになっています。
実際にこれらの法律によって、国家機密の情報漏えい事件が取り締まられ、これまで数多く立件されて、実刑判決を受けるに至っています。よって、今までの法律では取り締まれなかったということではなく、新たに秘密として特定できる範囲を大きく拡大したいということなのです。
「特定秘密保護法案」の主な内容は、①国の存立に重要な情報を「特定秘密」に指定すること。②秘密を扱う人の「適正評価制度」を導入すること。③特定秘密を漏らした人を厳しく罰すること、の三つです。それでは次回、これらの三つのことを詳しく見ていきましょう。