これって何が論点?! 第17回 12月の解散総選挙が転機!?
星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。
安倍首相は十一月十八日の記者会見で、二〇一五年十月に予定していた消費税十%への引き上げを一年半先送りにすることを発表しました。七―九月のGDP速報値が〝前期比で年率1.6%減〟と出た以上、当然の措置といえるでしょう。ところが安倍首相は、「税制こそ議会制民主主義と言ってもいい。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべき」として、衆議院解散を宣言。総選挙の日程は十二月二日公示、十二月十四日投開票としました。
Q今回の解散総選挙は、増税時期の先送りが論点なの?
増税先送りは、消費税増税法の「景気条項」(景気が想定以上に悪化していれば増税を先送り、または取りやめができる)による当然の措置です。しかも二〇一七年には景気条項を削除して、その時の景気動向にかかわらず増税を断行する、というのですから、釈然としない解散理由です。
菅官房長官は十一月十九日、「何で信を問うのかは政権が決める。安倍晋三首相はアベノミクスが国民にとって最も大事な問題だと判断した」と発言し、集団的自衛権行使については、自民党は〝憲法改正〟を公約にしているから、国民に信を問う必要はない、限定容認は現行憲法の解釈の範囲で争点にはならない、としました。この発言は、国民主権を実に軽く見ている表れだと思います。あてがわれた争点だけを見るのではなく、現政権が推し進めてきたこと、そしてこれから向かってゆく方向を私たち自身で判断して、投票によって行動する主権者でありたいと思います。
Qでは選挙の論点、どこを見る?
現安倍政権を知るには、今まで強引な手法を取ってでも推し進めてきた法案や政策に注目することが大切です。二〇一三年十二月に閉会した第一八五回臨時国会の会期末に強行採決されたのが「特定秘密保護法案」(二〇一四年十二月十日施行)。二〇一四年六月の第一八六回通常国会の会期末に強行採決されたのが、国会に〝秘密会〟を置くための「国会法改正」等の三法案。そして七月一日に閣議決定されたのが「集団的自衛権」の行使容認です。集団的自衛権の行使容認は、戦後一貫して守ってきた「専守防衛」の一大原則を、〝攻撃を受けるおそれがあれば先制攻撃できる〟とし、自衛の範囲を拡大しようとするものです。このような戦後史を覆すほどの変更を、国会も通さずに、閣議だけで決定した強引さに、安倍政権が何としても実現したい方向性が現れています。
そして今、強引に進めているのが沖縄県名護市辺野古への新基地建設です。十一月十六日の沖縄県知事選挙はこの新基地移転の是非をめぐって争われ、建設反対の翁長雄志氏が十万票以上の大差をつけて当選しました。にもかかわらず、同選挙の三日後には、中断していた浮桟橋等の再設置作業を、住民の反対を振り切って再開しています。
安倍政権の方向性とは、日本国憲法第九条の「非武装平和論」を否定し、〝武力の行使や威嚇という抑止力で紛争のない平和な秩序を創る〟という「武装平和論」(安倍首相は「積極的平和主義」と表現)への転換を目指すものです。他にも原発再稼働、TPP加盟、労働者派遣法、そして最終的には〝憲法改正〟を推進しています。今回の選挙では実は、子どもたちの将来に負担を背負わせる多くの問題が問われていたのです。「選挙に行かない」「入れたい党がないから、白票を投じる」のではなく、次世代のために労苦する者となりましょう。主権者の第一歩は投票からです。
推薦図書
想田和弘著『熱狂なきファシズム・ニッポンの無関心を観察する』
(河出書房新社、2014年)
想田和弘著『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレットNo.885、
2013年) 主権者であるとはどういうことか、大切な視点を語っています。