これって何が論点?! 第21回 米軍新基地建設は止められないの?
星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。
沖縄での辺野古新基地移設計画では、反対する県と推進しようとする政府とが対立しています。どうして日本政府はそこまで基地移設を推し進めようとするの?
【お詫びと訂正】先月5月号に、誤って4月号の内容を再び掲載してしまいました。星出先生並びに読者の皆様に心よりお詫び申し上げます。
三月二十三日、翁長雄志沖縄県知事は沖縄防衛局(防衛省の地域組織)に対し、投下したコンクリートブロックがサンゴ礁を損傷した可能性が高いため、基地移設作業停止を指示しました。しかし翌日、防衛局は行政不服審査法などに基づき、農林水産相に指示の執行停止を求めると、停止命令を無視してボーリング調査を続けます。同日に菅官房長官は記者会見で「粛々と作業を進めていく」と強調し、米国務省ハーフ副報道官も「基地移転のための工事は、計画通り進められていくものと理解している」と発言。
そして三十日、林芳正農林水産相は、県知事による作業停止指示の効力を一時停止すると発表しました。県知事の指示を政府が無視する形で新基地建設が進んでいます。
Q どうして日本政府は新基地建設を強硬に進めるの?
ここに、移設反対の知事が大差で当選したにもかかわらず、日本政府が米国の意向に全面的に従い、国民の民意は軽んじていることがよく現れています。
実は、これは戦後史を貫いている構造的なものなのです。
一九四五年敗戦後、日本は六年間米軍の占領下となりました。一九五二年四月にサンフランシスコ平和条約を発効し、日本は独立を果たしますが、同日に発効した日米安保条約(旧)により、在日米軍が占領期と全く変わらずに、日本の法律に拘束されずに行動できるという取り決め「日米行政協定」が締結されるのです。こうして、占領軍は在日米軍と名前を変え、日本に駐留し続けることになります。
アメリカ政府側の安保条約交渉担当であったジョン・フォスター・ダレス国務省顧問は、この日米安保条約の目的は「われわれが望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留する権利を確保すること」と語りました。米軍は望む施設や区域を使用でき、その管理権はすべて米国政府で、返還後も元の状態に復帰する義務は負わず、米兵の出入国も自由、米兵の日本国内での裁判権も米軍に所属し、この協定はあらゆる国内法(法律)に優先します。
米軍ヘリの墜落事故、米兵によるレイプ、暴行、ひき逃げ事件などの犯罪も日本の警察は取り締まれない現実が、沖縄では頻繁に起こっていますが、実はこれは日本全土で言えることなのです。これは一九六〇年の日米安保条約(新)締結に伴い、「日米地位協定」へと引き継がれました。
Q 「日米地位協定」の条約は、日本の憲法より上なの?
現在、日本の法令の順位は「憲法」「条約」「法律」「政令」「省令」「訓令」「要綱」「条例」の順となります。そのため、国家間の条約が締結されると「特別法」「特例法」が定められて、条約にかかわる部分だけ法律を改正する方法がとられます。つまり、憲法は条約よりも上位にあるわけです。
ところが一九五九年十二月十六日、“在日米軍駐留の憲法違反”が争われた「砂川事件」で最高裁判所(田中耕太郎長官)は「日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」という「統治行為論」を採用します。「統治行為論」とは、高度な政治的な問題については、司法は憲法判断をしない、という意味です。こうして司法が違憲合憲の判断を放棄してしまったため、政府の憲法違反を直接判断する道が閉ざされてしまったのです。統治行為論によって、本来、条約より上位にあるはずの憲法が機能しないまま、という重大な結果を生むことになりました。
日本国憲法第八一条「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」という役割を、最高裁判所が自ら縮小・放棄してしまったといえます。
Q じゃあ実際に日米地位協定は最高法規になってるの?
戦後史は一貫してそうなっている、と言ってよいでしょう。例えば日米安保条約に基づき、「航空特例法」という法律で、米軍機は国内の航空法の制限が一切適用除外とされています。また日米地位協定により、一都八県(東京、栃木、群馬、埼玉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡)の首都圏上空には、すっぽり米軍が支配する空域、「横田ラプコン(管制空域)」が存在し、横田基地が管理しています。沖縄上空にも同様に「嘉手納ラプコン」があり、二〇一〇年三月末に管制権は日本に返還されたことになっていますが、実態は今も変わらず米軍が支配しています。
事は空域の支配だけでなく、裁判権をはじめ、米軍関係のすべて、米軍基地をどこに移設させるかということにおいても、アメリカの管轄権に属するのです。さらに日米地位協定には第二五条「日米合同委員会」という項目があり、これに基づいて毎月開かれている合同委員会によって、日本政府の重要な政策が大きく左右されている現実があります。つまり、日本国憲法に基づく国民主権より、実質的により上位にあるものとして、「日米地位協定」が戦後一貫して日本の政治を動かし続けてきたのです。
同協定は、次回「原発再稼働問題」にもかかわってきます。
参考文献沖縄生まれ、琉球新報の新聞記者を27年勤めた編著者による。おすすめ!
前泊博盛編著『本当は憲法より大事な「日米地位協定入門」』(創元社、2013年)
孫崎享著『戦後史の正体』(創元社、2012年)
吉田敏浩ほか著『検証・法治国家崩壊』(創元社、2014年)