書評Books 歴史の節目における 教会の歩みを浮き彫りにする
『日本近代史に見る教会の分岐点』
岩崎孝志 著
朱基徹牧師記念の集い 編
A5判 2,000円+税
いのちのことば社
新潟聖書学院 院長 中村 敏
本書は、「信州夏期宣教講座」や「朱基徹牧師記念の集い」における数々の講義を通して、鋭い預言者的な発言をしてこられた故岩崎孝志氏の遺作である。
日本キリスト教史に関する多くの研究書がある中で、本書出版の意義はどこにあるのだろうか。評者自身も含めてであるが、日本キリスト教史を叙述する場合、まず教会側の資料を基にしてまとめ、その背景を知るために一般史を引用するという形が普通である。しかし本書は、一貫して広範な近代史の資料を縦横に駆使しながら、歴史の節目における教会の歩みを浮き彫りにしている点でユニークな著作であり、大いに啓発される。本書編集の責任を担った野寺博文師の「はじめに」によれば、本書は、「最新の歴史研究の成果を踏まえながら、それぞれの時代状況において教会がどう生きたかを描き出そうと試みている」ものである。
本書は、日本のキリスト教宣教の歴史における五つの分岐点を取り上げている。まず十六世紀におけるカトリック宣教、二番目は十九世紀のプロテスタント宣教、三番目はアジア・太平洋戦争への道をたどる中での教会の対応である。そして四番目は敗戦後の教会であり、五番目は未完に終わったが、原発や安保法の今日的問題にまで及んでいる。
評者から見て特に注目すべきは、三番目の「戦時下の教会」と四番目の「戦後の教会」である。政府主催の三教会同(当時の文部省が神道・仏教・キリスト教の代表を集め、天皇制国家への協力を取り付けた)や宗教団体法の成立を、これで国家から公認されたと教会が歓迎し、戦争協力へと突き進んでいった。「一度国家権力と妥協し、その前に屈服してしまうと、その宗教は、再び自主的にその鎖を断ち切ることがきわめて困難になる」(一六五頁)とは戦前の教会の歩みから学ぶ、今日の私たちへの警告である。
著者が二〇一二年に病のために召されてしまったのは、実に惜しむべきことであるが、遺作である本書を通し、その志がしっかりと受け継がれていくことを心から期待するものである。