書評Books 生きた福音理解のリハビリ指南書

『わかるとかわる!《神のかたち》の福音』
河野勇一 著

B6判 2,200 円+税
いのちのことば社

 

聖契神学校 校長 関野祐二

三位一体、ノアの三息子、主の弟子三羽烏など、聖書には「三」の組み合わせがよく登場する。説教も三ポイントが多いだろう。どんな荒れ地でも三脚が安定するように、本書は全篇が「三」で貫かれ、聖書に特徴的な救いの構造がどっしり提示されている。集約されたキーワードは「神のかたち」で、「創造されたオリジナルな」(人間)「毀損された」(罪人)「真性の」(キリスト)神のかたちと三区分され、救いが「所与」(開始)「課題」(継続)「約束」(完成)と三段階に進展する。以上の各項目はそれぞれ、「関係」(契約)「実体」(いのち)「目的」(機能)の各概念で説き明かされる。一八二~一八三頁に《神のかたち》のスキーマという、救いの構造チャートがあるので、読者は常にこの表を参照しつつ、自分が今どこを学んでいるか、立ち位置を確かめながら進むと分かりやすい。
タイトルは取っつきやすいが、これは組織神学書である。といっても恐れることはない。聖書に啓示され、贖いの歴史で実現した「救い」の豊かさをどう表現したらいいか、著者が四十年間牧会の現場で試行錯誤し、考え抜いてまとめた渾身の作だからだ。しかも、三本の説教で始まり、神のかたち回復の物語を味わったうえで、聖書原語のヘブル語ギリシア語を縦横に参照し根拠を示した本論が展開、お腹いっぱいになったところで、神のかたち完成に向けての三物語によるエンディングとは心憎いばかり。一般書を含めた参照頁込みの文献紹介も多く、学びを深めたい読者にはありがたい。巻末に聖句索引まで付いている。
貴重なのは、理論と実践を兼ね備えた熟練の著者が、既成の古典的神学に安住することなく、NPP(パウロ神学の新たな展開)や東方神学、物語神学、聖書学の新たな知見などをふんだんに取り入れ、独自の枠組みを提示していること。骨太の福音理解を回復するためのリハビリ指南、本書を読みながらそんなイメージが浮かんできた。
神との協働を実践し、地を管理すべきキリスト者、必読である。