書評Books 漫画で触れる三浦綾子の世界

日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団帯広キリスト教会 牧師 吉田 敦

『漫画 海嶺―3吉漂流物語』
三浦綾子 原作
勝間としを 作画
かつまかずえ 構成
四六判 1,200円+税
フォレストブックス

三浦綾子作品の『塩狩峠』に続く、漫画二作目は『海嶺』である。漫画は今や世界に発信する日本の文化の一つになっており、日本を目指す多くの外国人が日本語を学ぶのに漫画をテキストに使う時代である。「漫画ばかり読んで……」は昔の話しである。
この漫画『海嶺』について、二つの大きな意味があると私は思う。『海嶺』は単行本で上下二巻、文庫版では上中下の三巻で、三浦綾子作品の中ではボリュームのある作品となっている。そのせいか、私の周りでは「『塩狩峠』は読んだことがあるけど、『海嶺』は読んだことないな~」と言う人が多い。映画「メジャーリーグ」(米国一九八九年)の中で主人公の野球選手に図書館勤めの彼女が教養をつけてほしいと『白鯨』を読むことを薦める(『白鯨』はサマセット・モームが選んだ世界十大小説の一つでアメリカ文学を代表する名作)。本を読むことの苦手な主人公は悩んでしまう。あるとき『白鯨』の漫画を手にして、読むのである。そして彼女に『白鯨』を読んだと話し、彼女の心を射止める。そう、この手がある。
三浦綾子作品は好きだが、『海嶺』は歴史作品で長いしと思っている人たちにはうってつけである。さらに、漫画であることで、大人だけでなく、子どもたちにも読んでもらうことができる。子どもたちが三浦綾子文学に触れることができる。
そしてもう一つは、作画家がクリスチャンである。クリスチャン漫画家が『海嶺』を描いた。このことが最も重要。今まで、数多の有名な漫画家が、聖書物語、聖書人物伝を描いてきたが、クリスチャンではない場合も多い。漂流しその時代に翻弄され、初めての日本語の聖書翻訳に至る音吉たち、ケント紙の上でうまく描くことができたとしても、その背後に働く神の摂理を表現しないで表すことはできない。クリスチャン作家が書いた作品をクリスチャン漫画家が表現することは、ここに意味がある。
「日本の国はわしらを捨てた しかし わしらを決して捨てぬまことの神がいるのや……」