特集 旧約を知ると聖書が面白い! 聖書が分からない!?

東京フリー・メソジスト小金井教会 牧師(ユースパスター) 伊藤真人

エデンの物語
旧約の民が読んだ聖書
サンドラ・L・リクター 著、藤原祥隆 訳
A5判 272頁 2,200円+税

ある本で、聖書の旧約と新約をトリセツ(取扱説明書)に比べていました。取扱説明書には、大抵の場合まず初めにその機械を組み立てる前に各パーツが紹介されています。「ネジAが何個、ネジBが何個……」といった具合で。そして、組み立てるために必要な工具、組み立てる順番、組み立てた機械の使用方法、トラブルシューティングなどが載っています。聖書の旧約と新約は、確かにこれと似ている部分があります。新約聖書だけを読むというのは、まるで、取扱説明書のパーツ紹介や、必要な工具、組み立て方を読まずに、完成した機械を使おうとするようなものです。
しかし、礼拝メッセージや教会学校では、新約から語られることが多いのではないでしょうか。旧約から語られても、「それがどうして自分に関係があるのか、イエス・キリストとどう繋がっているのか、いまいち分からない」というのが私たちの多くにとって、素直な悩みなのではないでしょうか。
私の属している教団の青年委員会で青年たちと話している際に、「旧約聖書が分からない!」という声があがりました。この青年委員会主催で、聖書塾という学びを以前から教団の青年たちのためにしていたのですが、新しい聖書塾のテーマとして旧約聖書の学びの準備をすることになりました。しかし、そのためのテキストを探していく中で、青年向けの旧約聖書の学びの本がなかなか見つかりませんでした。どうしても、難しすぎるとか、逆に子ども向けで浅すぎるなど、テキスト探しの時点で難航してしまったのです。
そんな時に、サンドラ・L・リクター師の本を思い出しました。私が卒業した米国の神学校で教鞭を執っておられたリクター師は、以前アズベリー大学で教えていた際、大学生が旧約聖書の学びを始める最初のクラスの内容を基にして、この本を書きました。ハーバード大学で旧約学の博士号を取得したリクター師は、最先端の旧約学に通じているだけでなく、しっかりとした揺るがない聖書信仰をもちながら、できるだけ大学生にも旧約聖書の素晴らしさ、楽しさを知ってほしいという願いを持って、この本を書きました。女性ならではの表現も、本来難しい旧約聖書の背景や全体像をつかむのを助けてくれます。直接リクター師の下で学んだ藤原祥隆氏に翻訳をお願いし、この本が日本語で読めるようになりました。
私たちの教団では、この本をテキストとして、教団の教職者や神学生で順番に一章ずつ担当して一か月ごとに聖書塾を開催しました。そこには、青年たちだけでなく、さまざまな方々が集ってくださり、豊かな学びの時となりました。この本は、それ自体で旧約聖書が全部分かるということではもちろんありませんが、聖書の全体像を知り、何よりも神の救いを体験するために助けとなるパーツや工具や組み立て方を学ぶヒントをたくさん与えてくれます。エデンの園で一体何が失われ、何が壊れてしまったのか、そのことを理解しなければ、イエス・キリストが命を捨ててまでして何を取り戻し、何を回復してくれたのか、真に理解することはできません。子どもでも理解できるようなレベルの本ではありませんが、聖書の全体像を知りたい、旧約聖書の背景をもっと理解したいという思いをもっている高校生以上であれば、十分に理解できる内容であると思います。
お勧めしたいのは、一人で読むだけではなく、聖書塾のように、教会や教団の仲間と共にディスカッションをしたりしながら学ぶことです。そして、この本で学んだことを使って、旧約聖書の素晴らしさ、深さを味わい、イエス・キリストの救いの偉大さをさらに受け取っていただきたいと願います。この学びを通して、有名な旧約聖書の出来事(ノアの箱舟、モーセの十戒、ダビデとゴリアテなど)が、どのようにしてイエス・キリストに繋がっているのか、自分の人生にどう繋がっているのか、改めて整理することができると思います。私自身にとっても、聖書を読む際に、この本の中に出てくる当時の社会の家族の仕組みや、文化的な背景が、聖書の面白さを知る大きな助けとなっています。聖書の中に描かれている、神による私たち人間の救出の物語が、今の自分の人生の物語と重なるとき、分からなかった聖書が開かれて行き、感動をもってその物語を伝えている自分を発見するでしょう。