書評Books 西郷どんは、聖書を読み、教えておられた

『西郷隆盛と聖書―「敬天愛人」の真実』守部喜雅 著
四六判 1,200円+税
フォレストブックス

日本バプテスト連盟 伊集院バプテスト教会 協力牧師  麦野 賦

二〇一八年NHK大河ドラマ「西郷どん」は、明治維新百五十年を記念する番組として地元・鹿児島では高視聴率を維持し、書店には「西郷隆盛の生涯」などに関する本が百冊以上並べられ、多くの人々が関心を寄せています。
西郷隆盛の出身地である鹿児島では、島津斉彬(薩摩藩主)、篤姫(斉彬養女、徳川御台所)、小松帯刀(薩摩藩家老)、大久保利通(明治維新元勲)らを大きく引き離して敬愛されています。西郷隆盛が好んで使い、揮毫したとされる「敬天愛人」の言葉は、多くの人々に親しまれ、わが家では額縁に入れて掲げています。
本書『西郷隆盛と聖書―「敬天愛人」の真実』のはじめに、西郷隆盛は①聖書を愛読し、それを人に教えていた。②秘密裏に、横浜でキリスト教の洗礼を受けていたと紹介しています。著者は数年前、民放テレビ番組「西郷隆盛はキリシタンか?」という歴史番組のなかで「聖書と洗礼」に関する西郷の生き方に関心をもたれました。西郷から直接に教えを受けたとされる人物の末裔に面会したこと、西郷の存在が、自らのキリスト信仰に導かれる契機になったというインタビュー記事を紹介しています。
「西郷どんはキリシタンだったのか?」という問いに、著者は真剣に答えます。著者が感動したことは、中学時代の歴史の時間に学んだ西郷の“征韓論”は、好戦的な政治家のイメージをもっていたが、取材をとおして歪曲的な西郷像であったことを知ることができてよかったと語ります。
「西郷隆盛という、近代史のなかに聳え立つ巨人の生き様に、再び、光が当てられようとしています。それは、政治家としての西郷の業績に注目するというより、その人間性、内面性の輝きが、混迷する現代にあって、我々に、愛と赦しの大切さを教えてくれるからかも知れません」(一五七頁)というおわりのことばに、著者の主張が込められています。
キリスト教関係者のみならず、「敬天愛人」に親しみを覚える多くの人々に読んでいただきたい書物です。