ビデオ 試写室◆ ビデオ評 56 『ナザレのイエス』

『ナザレのイエス』
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

イエス伝映画の最高傑作
美しさ、綿密に練られた脚本、迫真の演技

 「私は、あなたの哀しみを知っている。来なさい、私のもとに」。このキャッチコピーを見た瞬間に、私は映画館へ行きました。今から20年余り前のことです。イエス・キリストの生涯を描いた映画の中では、最高のものではないかと思います。

美しさ

 監督はフランコ・ゼフィレッリ。『ロミオとジュリエット』、『ブラザー・サン シスター・ムーン』で、ご存知の方も多いかと思います。カトリックの信者であることも、知られています。カトリックの監督がもつ良さの一つが、まるで聖画が動いているかのような美しさです。空の色がきれいで、音楽、演出、色、その美しさに触れるだけでも、心が癒される気がします。

脚本

 映画の命は脚本です。バージェス、ダミーコ、そして監督のゼフィレッリの3人が書いています。ただ聖書物語をなぞるだけではなくて、そこに解釈を加え、どんな葛藤の中で、あのよく知られた言葉が語られたのか、立体的に表現されていて説得力があります。
 ビデオの第一巻では、マリヤの処女懐胎に伴うとまどいと喜び、ヨセフの誤解、苦悶、恐怖が、ていねいに描かれています。この巻では、イエスの少年時代も事細かに描写されています。とくに、遠征中のローマ兵がユダヤ人たちからパンを奪っていくとき、少年イエスが奪う者と奪われる者をじーっと注視している表情は、清らかで、悲しく、するどく、その目はすでに救い主の眼差しをたたえています。

演技

 マリヤ役のオリヴィア・ハッセー、ヨセフ役のヨルゴ・ヴォヤジスが、迫真の演技で観る者をまず引き込みます。さらに、ラビのシリル・キューザック、シメオンのラルフ・リチャードソン、バプテスマのヨハネのマイケル・ヨーク、ヘロデ大王のピーター・ユスティノフ。いずれも超一流のキャストです。
 全部で6時間を越えるこの映画では、あまり同種の映画では取り上げられないニコデモ(ローレンス・オリヴィエ)との対話、放蕩息子の喩えなどが、印象的な演出で入っていました。一生に一度は、ぜひ観てください!