書評Books この国でキリスト者として生きるために
この国でキリスト者として生きるために
日本長老教会・蓮沼キリスト教会 牧師 遠藤 潔
『日本人は何を信じてきたのか
クリスチャンのための比較宗教講座』
勝本正實 著
B6判 1,300円+税
いのちのことば社
本書は日本の宗教を知るためのたいへん良い手引書です。扱っている範囲は、民俗宗教(自然宗教)、神道、仏教、儒教、修験道、一六~一七世紀のキリシタン、明治以降のキリスト教、明治以降の新宗教にまで及び、それぞれの宗教について、日本における歴史、信仰内容、民衆への影響、他宗教との出会いと関係、国家為政者との関係などを丁寧に概説しています。しかも、キリスト教の視点から他宗教を批判するのではなく、「比較宗教」の視点で日本にある宗教を公平に客観的に見ようとしています。特に目を開かれたことは以下のことです。
日本人が長い時間をかけて日常生活の中で生み出した「民俗宗教」は、自然を神々の霊が宿るところとして畏れ敬い、また、この世とあの世はつながっていて、先祖を敬い供養することを大切にしてきたこと。日本人の基底にある民俗宗教は、紀元五〇〇年代の仏教の来日に至って、「神道」という形で組織化・体系化され、外来の「仏教」も死者供養を大切にすることによって、日本に受け入れられていったこと。神道と仏教は別々の宗教ではありながら、両者は互いに受容し、補充し合って、人々の年中行事や人生儀礼においてそれぞれの役割を担っていったこと。神道も多神、仏教も多仏多神であり、両宗教には唯一絶対神が存在しないため、日本人にとっては、真理とは何かとか、どの宗教・宗派が良いかということより、どの宗教・宗派(どの神や仏)が自分の役に立つかが重要であり、一つの宗教・宗派だけを選択する人は少数であること。また、絶対神が存在しないゆえに人間同士が赦し合うこと、助け合うことをより大切に考えていること。江戸時代の檀家制度や明治維新後の天皇制国家神道体制など、国家為政者による人心掌握のための宗教利用とその影響について、等です。
「この国で暮らしている人に、この国の文化と対抗させながらキリスト教を伝えることは説得力がありません。キリスト者は、聖書とこの国のことを学ぶ必要があります」(本書一三三頁)。この日本で生き、この国でキリストを証しする私たちへの著者からのチャレンジのことばです。