~Daily Light~ 第11回 月明かり

石居麻耶 Maya Ishii

千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。

もしも一日のうちに語れる言葉の数がほんのわずかであったら、言葉なくして人を思いやることとか、本当に伝えたいことをもっと一生懸命考えたりするのでしょうか。

一緒に暮らしていた祖母がアルツハイマー型認知症と診断されたのは、私が高校に入学したばかりの頃でした。家族みなでできるだけのことはしましたが、日々侵食する病という闇になすすべもなく、介護の疲労が重なってゆきました。次第に意思の疎通が難しくなると、祖母は祖父を「あの人」と呼び、別の存在と思うように。あるとき、私も祖母から「あなたがそんなだとは思わなかった」と言われ、寂しさと罪悪感と自分の弱さに気づかされ愕然としました。祖母は10年ほどの闘病の果て、信仰告白をした後、天に召されました。

月の欠けたところは見えないけれど、ないのではなく確かに存在します。心のそのようなものにどんな言葉をかければいいのか、私は今でも明確な答えを持ち合わせてはいません。ただ、私の元に届いた手紙に覚えておきたい言葉があります。

「どんなに考えても、人の心や人の人生に思い至らないことがあるのは、当然のことです。でも、それで終わりではありません。考えながら歩んでゆく、誰もがそうなのだと考えられませんか。これからの問題は、共に生き続ける人のことですね。あなたの行く道に良い出会いがあることを願っています。言葉が足りないかもしれませんが、これは今、私が言える精一杯の言葉です。あなたはあなたらしく、どうか自分の信じた道に向かって、前に進んで行ってください。」

今日のような日を想像もしていなかったあの頃と、あの頃を思い返す今日という日は遠く隔たりのあるものでしたが、闇夜を照らす光も見えたのでした。

「光は闇の中に輝いている。闇はこれに打ち勝たなかった。」(ヨハネの福音書 1章5節)