書評Books 会衆が育つ講解説教
日本ホーリネス教団・横浜教会 牧師 中西雅裕
『マルコの福音書に聴くⅠ イエス・キリストの福音のはじめ』
中島真実 著
B6判 2,200円+税
いのちのことば社
「麺抜きでラーメンを注文するようなものです。」 笑ってしまいました。救われたいけれども従いたくないということを、たとえて語るのです(本書二七頁)。この福音書は「イエスについて行くことを『福音』と呼び、その道がどんな道かを示していきます」(同頁)とあるように、主イエスの招きとそれに応えて従うことの祝福を、組織神学を修めた方らしく、まるで小学校の下級生の前で語るかのように噛み砕いて語っておられるのです。これは本当に難しいことですが、著者ならではのことだと思います。また、旧約聖書や社会的文化的な背景にも丁寧に触れられ、神学的な用語の説明も言葉を選んで説教が取り次がれています。
「原始教会最初の説教者となった使徒ペテロの口述が叙述の中心であり、記録としてもメッセージとしても、直接に触れた者だけが語り得る迫真の力を有する」と著者はこの福音書を評していますが(八頁)、これを再現しようと、物語批評によって解釈しようと試みています。一書全体を取り扱い、文章構造を読み解き、そのユニークさを明らかにすることを主眼として、福音書自体のメッセージを生き生きと浮き彫りにしようと取り組み、会衆と分かち合うことに心を砕いておられる努力が読み取れます。
そのため、説教集全体に一本の筋が通っています。「わたしについて来なさい」という主の招きとそれに応えて従う弟子の道とはどういうことであるのかが、毎回の説教で語られ、個々のテーマもはっきりし、鮮明に心に残ります。背後にある深い霊性と丁寧な学び、確かな聖書知識あってのものであることは言わずもがな、とにかく著者がこの福音書全体を深く理解しておられることがうかがわれます。
数年前私は、著者が牧会される教会に行かせていただきましたが、元気で活発な、健全でバランスの取れた信仰者の集まりとの印象を受けました。あらためて、このような説教で養われているのだと感じ、うらやましく思いました。
どうかこの本をご一読ください。主イエスの弟子となることの恵みがわかります。お用いください。後半の説教集も期待します。