320 時代を見る眼 東日本大震災から10年を経て〈2〉迷いの森を歩みながら
ミッション東北・郡山キリスト福音教会 牧師 木田惠嗣
2月13日午後11時8分に、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が起きました。
東日本大震災から10年を経てやって来た余震に、当時の記憶が生々しくよみがえりました。この10年を振り返るとき、迷いの森に踏み込み、出口の見えない森の中をひたすら歩き続けてきたように感じます。
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福島では、地震、津波に加えて東京電力福島第一原発の事故が起き、事故による放射能汚染は、浪江町の請戸川沿いに北西に広がり、内陸部の中通り地方に及びました。
「ふくしまHOPEプロジェクト」という子ども保養の活動に関わりながら、見えない放射能を見える化するため、食品放射能計測、空間線量測定を始めました。
放射性ヨウ素による初期被ばくをした子どもたちの甲状腺検査が始まると、県民健康調査検討委員会の傍聴に通ったり、福島県キリスト教連絡会の「放射能問題学習会」に参加したりと、伝道牧会の働きに加えて、放射能や原発問題に関わらざるを得ず、迷いながら10年を過ごしてきました。
科学技術は、さまざまな失敗を乗り越えることで飛躍的に成長してきましたから、楽観的に見るなら、原発の過酷事故が、革新的な技術の発達につながると予測することもできます。
しかし、それは、事故原因が徹底究明されるということが前提です。
迷いの森の中で気づいたことは、AかBかという二律背反の議論に縛られると迷い、AもBもと考えると視界が広がるということでした。
福島県の発表(2021年1月15日)によると、甲状腺がんの疑いがあると診断された子どもたちは252人に及びます。その原因は、原発事故の影響か、そうでなければ過剰診断かと言われます。しかし、事故の影響による発がんもあり、過剰診断による増加もあると考えるのです。
また、原発事故は、津波による全電源喪失が原因で、地震による配管の損傷が原因ではないとされていますが、津波による電源喪失もあり、配管損傷による電源喪失も起きていたと考えると視界が開けます。
不都合な事実から目を背け続けるなら、同じ失敗を再び繰り返すことになります。