京都のすみっこの小さなキリスト教書店にて 第一回 からしだね書店を始めました
CLCからしだね書店店長 坂岡恵
略歴
社会福祉法人ミッションからしだね、就労継続支援A・B型事業所からしだねワークス施設長。精神保健福祉士。社会福祉士。介護福祉士。2021年より、CLCからしだね書店店長。
CLCブックス京都店が閉店するという知らせを聞いた、二〇二〇年十月の礼拝の帰り道。車中で突然夫が「『ミッションからしだね』で、キリスト教書店を引き継がしてもらえないかなあ?」とぽつりと言ったのが、始まりでした。
「数少ない大事なキリスト教書店がひとつ京都から消えてしまう……」と、残念でならなかった私は、即座に「それ、すごくいい!」と、喜びの声をあげていました。
書店の経営など全く知らないど素人の小さい社会福祉法人に、「キリスト教書店、やってみたら?」と、声をかける人などいるはずもなく、しかもコロナ禍で先行きが見えないご時世です。まさに身のほど知らずで怖いものなしの私たちだからこそ、天から矢が降ってきてズキュンとハートに刺さった、というような展開でした。
次の日からさっそく、閉店間際で大忙しのCLCブックス京都店森下店長やら、ミッションからしだねの役職員やら、教会関係の人やら、いのちのことば社の方やら、クリスチャンでもない親戚やらに、「障がいのある人の働く場として、キリスト教書店をやってみようかなと思うのですが……」と、こわごわ言ってみたら、全員が「いいね!」と大賛成してくださいました。中には涙を流さんばかりに喜んでくださる方もいたりして、「え? こんなにスムーズにいって、いいの……?」と、戸惑うくらいでした。
森下店長やいのちのことば社の方々は、書店のことを親切に一から教えてくださり、書棚やレジ周りの物品、照明等、購入したら相当な金額になるものを無償で譲ってくださいました。
神様のなさることって、早いときは早いんだなあ、とつくづく思います。
というのも、私たちには十八年前、「ミッションからしだね」最初の事業として計画した精神障害者地域生活支援センターの建設が、地域住民の大反対にあって頓挫した経験があるのです。
「そういう施設が必要なのはわかります。でも、もっと離れたところでやってください」と、言われました。新たな場所を探して事業を開始するまでには、資金計画も建設計画も事業計画も、すべて一からやり直さなければならず、とても時間と労力がかかりました。
ただ、そんな無駄とも言える時間は、社会から排除される人たちの気持ちを身をもって知る、大切な時間にもなりました。
今、からしだね館がある場所は、京都市営地下鉄東西線小野駅から徒歩一分の便利な場所です。こうなったら支援センターだけではなく、当時不足していた精神障がい者の就労支援事業を手がけて、障がい者と地域をつなぐカフェをやろうということになり、そうすると、建築条件の関係から地下にもスペースを作らなくてはならなくなり、コンサートを開いたり朗読CDを作って販売したりしてお金を集めました。そしてそのたびに、多くの新しい協力者と出会い、支援者が増えていきました。
あちこちでつまずいて寄り道をしましたが、私たちの未熟さ、失敗や勘違いでさえ、ひとつも無駄にはせず、良い結果に変えてくださる神様のことが、少しわかったような気がします。もし、最初に計画した場所にからしだね館が建っていたとしたら、駅から遠く、ブックカフェを開くしつらえもなく、作業のための地下スペースもなく、あらゆる点で書店開店は無理だっただろうと思います。
豪快で、愉快で、ユニークで、おちゃめな遊び心やいたずら心をお持ちの神様。私たちのとっぴな思いつきでさえ待ちかまえていて、「なるほど、それはおもしろい。だったら、こういう展開のしかたはどう?」と、新たな筋書きを提案してくださる神様。道草や寄り道もすべて美しく統合しながら、見事に整えていかれる神様。
神様はそんなご自分のことを、わかりやすくていねいに自己紹介してくださったのでした。
このようにしてできた小さなキリスト教書店の営みは、迷うこと、悩むこと、想うことの連続です。障がいを抱えて生きる方々は、一人ひとりみんな違い、その人にふさわしい「自立」があり、働く意味があるのだと思いますが、それを理解し、お手伝いするのはとても難しいことです。わからないことが多くて、あちこちで頭をぶつけてばかりいます。
それでも、神様が開かれた小さな書店は、そこで出会う人、そしてさまざまな考えを示してくれる本を通して、小さなヒントを与えてくれそうな気がします。一年間、そんなことを皆さまと分かち合えたらうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。