書評books 豊富な神学的知識と深い聖書理解に基づく読む説教
単立キリスト品川教会名誉牧師 吉村和雄
シリーズ 新約聖書に聴く
『ヘブル人への手紙に聴く 大祭司イエス・キリストを告げる説教』
岩崎 謙 著
B6判
定価2,420円(税込)
いのちのことば社
このたび、いのちのことば社から出版された説教集『大祭司イエス・キリストを告げる説教』の著者である岩崎謙牧師は、改革派を代表する説教者のひとりです。その著者が、牧する日本キリスト改革派神港教会において、ヘブル人への手紙を五十四週にわたって説き明かした説教を、ひとつにまとめたのがこの本です。説教原稿をそのまま本にしたのではなく、音源から起こした説教の要約を、読む説教として大幅に加筆修正したものなので、きちんと論旨が整理されており、明快で読者の心を打つものになっています。
何よりもこの手紙を、大祭司イエス・キリストを告げる説教として捉えたことにより、この手紙を読み解く視点が明確になっています。そこから、大祭司でいます主イエスを、旧約の大祭司と比較することによって、旧約と新約の間にある断絶を明確に示しています。この点にわたしは大きく心を動かされました。旧約と新約は歴史的には連続していますが、内容的には大きな断絶があることを、わたしも自覚していたからです。
しかし、生まれながらの律法主義者であるわたしたちは、福音の新しさの中に留まり続けることが難しく、事あるごとに古い思考の枠組みの中に帰ってしまいます。このことは、新約の福音がそれだけ革新的なものであることを示していますが、それを自覚的に捉えているキリスト者は少ないのです。著者は、その豊富な神学的知識と、深い聖書理解によって、この違いを繰り返し、明確に説いています。
長く信仰生活をしている人も、この説教によって、自分に与えられている福音が、どれほどすばらしいものであるかに、改めて目が開かれるでしょう。また、これからこの手紙を説こうと考えている牧師には、優れた導き手となり、かつてこの手紙を説いたことのある牧師には、もう一度この手紙を説き直したいという願いを与えるものになると思います。
信徒にとっても、牧師にとっても、手許において熟読すべき本であると確信しています。