さわりよみプラス 名画を彩る Vol.4 今月のお題 「キリストの洗礼」

ピエロ・デッラ・フランチェスカ
1450年頃/ナショナル・ギャラリー/ロンドン(イギリス)/
テンペラ、板/167×116㎝

 

…なぜ罪の全くない聖いイエスが洗礼を受けたのでしょうか。それは、公生涯を始めるにあたって、イエスが罪のある人間と同じ有限の立場に立っていることを表すためでした。そのようにして公生涯を始めることがイエスにふさわしいことだったのです。イエスは神の無限の聖さを持ちながらも、同時に人間としての有限な性質を持っていました。
イエスが洗礼を受けたとき、父なる神の声が天から聞こえました。それは、イエスの行為を喜び、イエスこそ父なる神が遣わした救い主であることを宣言する特別なことばでした。そして、そのときに御霊が鳩のように現れました。ここに、父なる神と子なるイエス、そして聖霊なる神の「三位一体の神」が同時に登場しているのです。
初期ルネサンスの画家ピエロは、背景の自然の姿を克明に観察し、それらを緻密に描写しました。木々の種類の違いもよく表れています。イエスの右側にしっかりと立って豊かな葉を茂らせている樫の木の描写こそ、ルネサンスの新しい時代を象徴するものであるとともに、イエスの「洗礼」は旧約時代から新約時代へ確実にバトンが渡されたことのしるしとなりました。それと同時に、この木はイエスの不動な姿を見事に引き立たせ、神からの祝福が豊かに注がれていることを暗示しています。
(『巨匠が描いた聖書』から抜粋)