書評books この一冊から 「福音」の 驚きがよみがえる
インマヌエル高津キリスト教会 牧師 藤本 満
『良き知らせをあなたに
聖書が語る「福音」とは何か』
南野浩則 著
四六判・112頁
定価1,540円(税込)
いのちのことば社
主イエスがガリラヤ宣教の初めで「福音」という神の国の教えを説いたとき、人々は「これは何だ。権威ある新しい教えだ」(マルコ1・27)と驚きました。
当時の人にとって何がそんなに新しく、なぜそんなに驚いたのでしょう。どこに神の国の到来の力強い響きを感じたのでしょう。私たちは、その新鮮な驚きを減じて聖書を読む傾向があります。本書は「良き知らせをあなたに」と題して、福音の驚きを新鮮によみがえらせてくれます。
本書は、福音を「神の正義と平和」と考えます。福音は「この世界で抑圧され、虐げを経験している人々が助けられること、また助けられた人々が互いを大切にし合って生きていくこと」(9頁)と表現できます。神は抑圧されている弱者の側に立ち、その価値観に私たちが生きるように求めています。そのような神の価値観と働きを、著者は出エジプトの出来事、そしてイエスの生・死・復活から解き明かします。
評者にとって特に興味深かった点を挙げてみます。
・聖書はどのようにまとめられていて、現代の私たちに
どのような意味があるのか(28頁)。
・現代にあって神が味方してくださる抑圧された者とは、
だれなのか(57頁)。
・罪に対する神の裁きとは(76~77頁)。
・神の正義と平和による贖罪論(86~88頁)。
・人間関係の上に成り立つ教会の意義(91~94頁)。
評者は、わずかな紹介を書くために三回本書を読みました。さらに読みます。それは、著者が解釈学という魅力ある分野の専門家であり、さらにイエスの福音に忠実に生きてきたメノナイト派に属している研究者であるからです。文章は難解ではありませんが、含蓄にあふれています。各章の終わりに皆で考える質問もついています。繰り返し読むことで、著者の世界に学んでみたい、そのような意欲をかき立てる書物です。