355 時代を見る眼 「生まれてよかった」と思えるために〔1〕 虐待の連鎖
社会福祉法人 救世軍社会事業団
吉田 有
こども家庭庁の報告によると、2022年の児童虐待通告件数は速報値で219,170件でした。また2021年度内に起こった虐待による児童の死亡事例は、心中による虐待死亡事例18件を含む68件で、これにより74人の幼い命が失われました。これはどこか遠い国の話ではなく、私たちが住む日本の今日の現実です。
病気や虐待など、様々な理由で親と一緒に暮らすことができない子どもを社会で支える仕組みを「社会的養護」と言います。日本では現在、約42,000人の子どもが、「社会的養護」のもとで暮らしています。「社会的養護」には大きく分けて「家庭養育」と「施設養育」があります。「施設養育」は児童養護施設のように文字通り、施設で子どもの成長を支える仕組みで、社会的養護全体の約8割を占めています。「家庭養育」は里親制度、養子縁組など、家庭に子どもを迎え、養育することです。日本では里親制度の普及が課題です。里親への委託は「社会的養護」に至る子どもの約2割しかありません。国は、子どもたちにとってより家庭的で、安心できる居場所を目指し、里親制度を推進しています。
私は、広島県で救世軍が運営する児童養護施設、児童家庭支援センター(民間の児童相談所)、里親支援センターの働きをしています。仕事の中心は、「社会的養護」に関わることです。児童家庭支援センターでは、様々な状況にある親子が虐待や病気などによってバラバラにならないよう支援しています。多くの方は誤解しているかもしれませんが、里親は養子縁組だけではありません。児童養護施設と同様に、親と離ればなれになった子どもたちが家庭復帰や自立によって社会に出るまで、数か月から数年単位で預かる養育里親という働きがあります。
これらの働きは、すべての子どもたちが「生まれてきてよかった」と思えることを願い、進められています。裏を返すと、生まれてきたことを「よいこと」と思えず、むしろ否定する思いを抱き、今を過ごしている子どもたちがいることを意味しています。
多くの場合、虐待の背景には連鎖があります。虐待している加害者自身が虐待、性被害、血縁者からの性暴力などを経験しているケースもあります。それが、虐待している子どもの出生の背景となっていることさえあります。その事実に触れるたび、加害者である母や父、パートナーにも抱えてきた痛みや苦しみがあり、加害者を責めるだけでは解決しないことを思います。