書評books 緊急かつ必読の書

日本基督教団平戸伝道所 協力牧師 犬養光博

 

『ナチス第三帝国へのキリスト教的抵抗 カトリックとプロテスタント』

ハンス・マイアー 著 河島幸夫 編訳
A5判・80頁 定価880円(税込)
いのちのことば社

 

日本では「ナチス第三帝国へのキリスト教的抵抗」と言えば、プロテスタントのみが対象とされていましたが、この本ではカトリックの抵抗について、詳しく触れられています。
著者のハンス・マイアーさんはカトリックのキリスト者です。
本書は、マイアーさんが一九九四年七月一一日にハンブルクのカトリック・アカデミーで行われた講演ですが、日本人にも分かりやすいように、区分けを行い、原注はドイツ語ですが、訳者の注は二十八回も日本語で丁寧に書かれています。
それに加えて、河島幸夫先生ご自身がこの本の日本人読者のために、「ドイツ教会闘争史 ナチス・ドイツにおける両キリスト教会の順応と抵抗―カトリックとプロテスタント」という論文を掲載しておられます。
ドイツを中心に、複雑なヨーロッパの歴史の中でナチ・ドイツがどのように成立し、カトリックとプロテスタントの教会がそれに、どのように接したかが詳しく述べられています。
全体が興味深いものですが、ナチス・ドイツの蛮行に対して、カトリック教会側の対応方式をめぐっては、ドイツ司教団の中に、「申し入れ路線」と「公開抗議路線」の二つが存在していましたが、一九三七年三月一四日に、教皇ピウス十一世によってドイツ語で出された回勅(通常はラテン語で書かれている)「ミット・ブレネンダー・ゾルゲ」(燃える憂慮に満たされて)の中で「人間は神によって人格として与えられた権利を所有する」と強調した事件(本書、四九~五一頁)。それと、ボンヘッファーが「暴君殺害の罪」を自ら引き受ける決意をした経過と、その受け止め方についての論述(同六七~六八頁)は、現在の問題として痛切に響きました。
決して読みやすい本ではありませんが、現在の私たちに鋭く問いかけていると思います。