書評books 神さまとの旅へと誘う「片道書簡」

イエス・キリスト福音の群・東北中央教会 牧師 永井信義

 

『うめきから始まる信仰 信じても、まだちょっと苦しい人へ』

中村穣 著
四六判・208頁 定価1,870円(税込)
いのちのことば社

 

コロナ禍を経て、自由に旅をすることができるようになりました。ただ、隔離や自粛の生活が続いたせいか、どうも縮こまったり、引きこもったりすることからなかなか抜け出せない、そんな私たちを神さまとの冒険のような旅へと誘う一冊、それが本書『うめきから始まる信仰』です。
「片道書簡」、つまり、読者への手紙のスタイルで、前半では壮絶で稀有な人生を歩んだ著者の過去、そしてその働きを含め、その現在が紹介されています。その中で、葛藤や苦悩、渇きを避けたり、無視したり、なかったことにしようとするのではなく、それらが「見えない・わからない神さま」と出会う入口であることを繰り返すようにして示してくれています。
そして、「人生の参考書ではなく、神の愛の書」である聖書を通して、私たちはさまざまな固定観念から解放され、「神さまが造ってくれた私にこそ価値がある」「何もできない、弱さに価値がある」と、「ありのままの自分」と出会う歩みへと導かれていくのです。
後半では、この旅を神さまは「驚き」(サプライズ)とともに導いてくださることが、聖書の解説にあわせて分かち合われています。たとえば、出エジプトの出来事を通して、神さまは「どんなに遠くに行っても連れ戻してくれるお方」であり、「最短距離でなくてもいい、遠回りした人生でもいい」ことが述べられています。
コスパ(コスト・パフォーマンス)やタイパ(タイム・パフォーマンス)など、効率や時短が叫ばれている、また、「いいね」でしか人とつながることができない中で、失敗を受け入れ、いつもともにいてくださる神さまとの「驚き」の旅を続けることの大切さを忘れてはいけないと、本書は大胆に伝えてくれています。
「信じても、まだちょっと苦しい人」にも読んでほしいのですが、私たちの理解をはるかに超えた神さまとの出会いをまだしていない人にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。