平和つくりの人 銃ではなく聖書を持って(2)
結城絵美子
フォレストブックス編集者
「炎のランナー」の主人公、エリック・リデル |
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「敵を愛せよ」は理想なのか
ところで、メティカフさんがいた収容所には、あの有名な映画「炎のランナー」で主人公として描かれた、陸上の元オリンピック選手、エリック・リデルがいた。彼もまた、宣教師として中国で暮らしているうちに戦争に巻き込まれ、民間人抑留者として捕らえられていたのだ。メティカフさんや友人たちは、リデルが収容所の中で開いていたバイブルクラスに出席していた。ある時、そのバイブルクラスで一つの議論が持ち上がった。「自分の敵を愛しなさい」というイエスの教えは、ただの理想かそれとも現実的な教えか、という議論だ。少年たちの意見が「それは理想にちがいない。日本兵を愛することなどできるはずがない」という結論に傾き始めた時、リデルが口を開いた。
「僕もそう思っていた。でも、イエスのそのことばには『迫害する者のために祈りなさい』という続きがある。愛せなくても、祈ることならできるはずだ」。そう教えるリデル自身、毎朝早く起きては日本のために祈っていたという。
敬愛するリデルの勧めに従って、メティカフさんは日本のために祈り始めた。リデルは、「憎む時、きみはきみ中心の人間になる。祈る時、きみは神中心の人間になる」と教えてくれた。日本と日本人のために祈っても、日本兵の振る舞いは変わらなかった。
しかし、それを見ているメティカフさんの心の中には変化が生じていた。目に映ることは相変わらず受け入れがたい。しかし同時に、(この人たちは、命の価値というものを知らないのだ)と理解することができるようになった。この思いはやがて、宣教師となって日本へ行き、神の愛を伝えたいという祈りに発展していった。