ブック・レビュー 21世紀ブックレット25
『日本宣教の光と影』
中村 敏
新潟聖書学院 院長
宣教の「影」を鋭く検証する
本講座が一貫して問いかけてきたものは、過去の福音宣教の歩みが、果たして主の御心にかなったものであったかということである。本書は、「アイヌ伝道等をめぐって」という副題がついており、宮島利光氏によってアイヌ伝道に対する実に鋭い検証がなされている。また岩崎孝志氏による「日本的キリスト教の陥穽 ─ 内村鑑三とその時代」は、日本のキリスト教史において高い評価を受けている内村鑑三を当時の北海道やアメリカについての歴史的考察その他を踏まえ、その影とも言える部分に鋭く切り込んでいる力作である。
さらに山室軍平の平民説教について山口陽一氏が、内村鑑三の説教について辻浦信生氏がそれぞれ興味深い考察をしている。
宮島氏は、二十数年アイヌ人に関わってきた経験と探求の中から、次のように結論づけている。すなわち、明治期に北海道に移民した赤心社を始めとする教会は、結局「天皇制国家の政治体制の中で骨抜きにされ」、その結果「明治政府のアイヌモシリ植民地侵略の尖兵としての役割を担った」というものである。
アイヌ人伝道で著名なバチェラーにしても、西欧の教会が世界各地で先住民族を野蛮で未開な民族として侵略し同化させ、キリスト教化した方策を踏襲したものに過ぎないと断じている。
その上で著者が強調したいことは、日本の植民地支配のもとで苦難の道をたどったアイヌ民族に日本の教会がまったく無関心であり続けたその体質の問題性である。
評者は神学校で世界宣教史を教えているが、世界宣教と言われる歴史の現場で、宮島氏の指摘が少なからず当てはまるように思われる。ただ、序文にあるように、本書が影の部分に注目していることは百も承知であるが、題が「光と影」となっていることを考えると、やはり本書は影の面を強調しすぎているように思われる。