第2回 いのちのことば社絵本大賞 受賞作品紹介&講評
● 総評
募集から〆切までが3か月だった第1回に比べ、今回は1年半の制作期間があり、約2倍の37作品が寄せられました。表現方法は幅広く、漫画のコマ割を取り入れた作品、手芸作品を撮影して物語にした作品、しかけを施したデザイン性の高い作品、アニメタッチのキャラクターがインパクトのある作品、詩情あふれる美しい絵が心に残る作品など、それぞれの持ち味を生かした創意工夫が見られまた。しかし、多くの作品が、表現しようとした意図や主題が十分に伝えきれておらず、着想やメッセージをどのように物語に落とし込んでいくかという点に課題が多いと感じました。今回は残念ながら、大賞の該当作品はなしという結果となりました。絵とテキスト(物語)の出来映えがそろわずに、非常に惜しい作品もありました。作画とテキストを分担する共作という方法にもチャレンジを期待したいと思います。
『ハレルヤ!』村上信理 (テーマ:自由 対象年齢:年少)
海外の絵本のようなポップでビビッドなイラストが目に飛び込んできます。構図は大胆でデザイン性が高く、言葉選びも無駄がなく、センスの良さを感じました。「うれしいことがあったら」「せーの!」「ハレルヤ!」。主人公といっしょに、「ハレルヤ!」と声に出しているうちに、心が神様に向かっていくようです。シンプルな展開ながら、いつも喜んでいなさい、たえず祈りなさい、すべてのことに感謝しなさい、というメッセージが「ハレルヤ」という言葉の意味とともに、わかりやすく伝わってきます。全体を通して、元気よく弾むようなテンポの場面運びが本作の魅力でもあるのですが、最後の着地の流れに少し変化をつけると、絵本らしい余韻が加わるのではないかと感じました。
『あおとあかの王さま』しろつあすか(テーマ:自由 対象年齢:年長)
何から何まで真逆の「あかの王さま」と「あおの王さま」が主人公。二人は犬猿の仲で、神様に祈るときも悪口ばかり。心を痛めた神様は一計を案じ、二人の体と心を入れ換えてしまいます。神様の仕掛けた荒療治によって二人の心が変わっていく様子が、漫画風のタッチで実に面白く描かれています。絵のクオリティは高く、人物の描き分けがしっかりとされ、キャラクターの魅力が生きています。クライマックスから結末にかけて、二人が元に戻ってからの展開にもうひとひねり工夫があると、コミカルな前半の良さが生きて、作品がぐっと締まってくると思いました。
『もらったの』菅原朋子(テーマ:自由 対象年齢:年少)
幼い「ぼく」のあどけないモノローグで展開する詩的な作品です。「ぼく」が「もらった」ものを一つ一つたどっていくと、究極の恵みをくださった存在にいきつきます。シンプルな言葉と繊細な水彩画が、静謐な作品世界を作り出していて、引き込まれるものがありました。年少向けとのことですが、この視点は子どものものではなく、絵のテイストと合わせてみても、大人に向けた作品と言えるかもしれません。また、シンプルなぶん、絵の力で魅せていく作品になっており、絵本として完成させるには、絵の存在感がさらに必要になると感じました。
企画・主催:いのちのことば社 出版部