寺町の商店街で教会の“いいもの”伝える

保浦宏規日本同盟基督教団大須教会 牧師

「教会さん、いいものもっているんだから、それを我々にも見せてよ!」
商店街の宴席で、気分のよくなった方が私に語りました。教会は賛美歌などのよいものをもっているのに、中にしまいこんでいてはもったいないと言うのです。素面の私は、そのことばに頭を殴られたような衝撃を受けました。クリスチャンではない人たちが「教会の中に魅力的なものがたくさんある」と思っているとは、考えもしなかったからです。
私たちの教会は、1953年にアメリカ人宣教師によって設立されました。名古屋市にある大須は、400年ほど前に徳川家康が尾張にある有力な40ほどの神社仏閣を集めて造った町です。宣教師は戦後の貧しい日本を見、また寺町であり歓楽街であったこの町の様子を見て、情熱を抱いて路傍伝道を開始したのです。その後、大須観音の参道にあった店を買い取って教会堂にしました。
現在の大須は地域で最も人の集まる商店街となり、教会のある参道もたくさんの人が行き交うアーケード通りとなっています。
東日本大震災のあった2011年に赴任した私たち夫婦は、映画『男はつらいよ』に出てくるような寺町商店街の雰囲気に戸惑いながらも、この町の仲間になろうと腹を決めました。そこで、私は商店街が行う祭りや行事も率先して手伝うようにしました。店主の集まりや宴会にも、進んで参加しました。もちろん偶像礼拝など、できないことは伝えて理解してもらいました。次第に私を信用してくださるようになった頃に、冒頭のことばを言われたのです。
教会では、このことばを神からのチャレンジと受け止めました。そこで、クリスマスに、教会前にステージを作って聖歌隊が立ち、商店街の人たちや通行されるたくさんの人たちと一緒にクリスマスの賛美歌を歌う礼拝を行いました。すると毎年行ううちに、商店街の宗教行事をキリスト教式で行うことを頼まれたり、結婚式や教会の創立記念式典や献堂式も、商店街と一体となって行うことができるようになりました。また私も商店街の理事となって、さらに地域のために働くようになりました。そのうちに、日曜礼拝にお坊さんや商店街の方々が顔を出してくれるようにもなりました。
周囲の人々と一緒に生きる歩みをするようになって、地上に来られたイエスが人々と一緒に生きたことを自分なりにわかり始めた気がしています。「教会のいいものを私たちに見せて!」。そのことばに押し出された「私の一歩」を踏み出して11年。今日も寺町商店街の人たちと一緒に歩んでいます。